木下晩年の力作。
もはや母を神聖化するルールは木下作品には存在しない。
ただ家庭を、モラルを汚す輩を消し去らんとする粛正ルールは以前として働いている。
本作がここまで力作たりえたのは、その輩は実在し、(木下が思う}十分な裁きを受けずに生き続けていることに起因するのではないか。
それが木下自身の眼が母を見つめる視点から、本作の主人公でもある父へ起点を移した晩年の作風にピッタリと当てはまる。
音楽が詩情をのせ、儚い人々を抱きしめる木下作品十八番の映像運びが、署名運動を続ける父の遍路場面に見られ、その力強さにファンは嬉しくなる。