【1979年キネマ旬報日本映画ベストテン 第5位】
1978年に『中央公論』で連載された長編ノンフィクション「衝動殺人」を映画化した作品。主演の若山富三郎はこの年の男優賞を総ナメにした。また、この作品をもって高峰秀子は女優業を引退した。
この映画の世論への影響は大きく、このあと犯罪被害者給付金制度が成立したと言われている。
そういった意味でも本作の意義は相当なものだが、単純に映画としてよく出来ている。
序盤であっさりと通り魔に息子が殺されてしまう。裁判所は犯人が未成年ということもあり、懲役5年から10年という軽い刑で済んでしまった。息子の最後の言葉「敵を討ってくれ」の言葉が頭から離れない父は、無差別殺人の被害者の会を形成していく。
息子が殺されてから、もっと辛い話になっていくと思ったが、そこは流石木下惠介。息子との思い出を重ねながら、犯罪被害者の家族を訪ねる様をじっくり映していく。
何の理由もなく殺された娘や息子のことを語る人々、情緒あふれた息子との思い出、それらを見事にまとめたドライな社会派作品。
息子の婚約者を演じた大竹しのぶ、夫を殺された妻を演じた吉永小百合、同じく夫を殺された写真屋の妻を演じた中村玉緒など今の大スターたちの演技もよかった。
被害者の情報が分かり次第すぐに飛んでいく父周三、心配しながらもしっかりと寄り添う母雪枝、お互いに支え合う様が愛おしい。
もちろん最後には号泣。そこでは終わらせない。「この法案はまだ通っていない」という強い主張。社会派映画作家としての木下惠介のメッセージが強烈だ。
完璧な構成と演出力でまとめあげた木下惠介、静かながらも夫婦愛と親子愛を表現した若山富三郎と高峰秀子、どちらも本当に素晴らしい。傑作。