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カサノバのodyssのレビュー・感想・評価

カサノバ(1976年製作の映画)
3.5
【ドラマより絵画的構図】

有名な色事師カサノバを、フェリー二が映画化した作品です。カサノバの自伝がもとになっているようですが、リアリスティックな再現ではなく、フェリーニ好みの映画的な空間を作り上げることに意を用いています。

ですから、色事師カサノバがどんな女と情を交わしていくかといった、いわばドラマめいた方向で見ると、物足りなさを感じるでしょう。また、女優の美しさといった点でも、永遠の恋人と言われるアンリエット役のテイナ・オーモンはさすがに美貌ですが、出番は意外なほど短く――だからこそ永遠なのかも知れませんが――、それ以外の女優は個性の方が美貌を上回っている場合がほとんどです。

カサノバ役の男優も、額が広くて老けた感じで、特に美男とも思えず、これで女にモテたのかなあ、なんて思ってしまいます。

むしろ、シーンごとの絵画的な構図の見事さや、バロック的な猥雑さを堪能すべき作品でなのでしょう。私は見ていて、広いカンバスの中で沢山の人物がそれぞれに動いているヒエロニムス・ボッシュの絵画を思い出しました。統一よりは、多様な乱舞こそがこの映画の特質なのです。

最後のお相手が人形だというのは、寂しいようでもあり、また最近の日本映画『空気人形』を先取りしているようでもあり、またピュグマリオン・モチーフということで言えば伝統的なようでもあり、或いは男の最終的な欲望はそこに行き着くのかも知れず、ちょっと考えさせられました。
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