にくそん

花束みたいな恋をしたのにくそんのネタバレレビュー・内容・結末

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

タイトルの通りの映画で、すごく楽しめた。恋愛をただ恋愛として始めから終わりまで描くドラマや映画って実は珍しいと思う。ドラマチックな障壁とか、魅力的な恋敵とか、そういうのなしに二人の恋愛をこんなに躍動的に描けるものなんだな、と劇場を出る頃には思った。観ている間は、スクリーンで起きていることや会話が面白くて、それを夢中で観ていた。

小説や漫画や映画など、文化をたっぷり引用しているところも楽しい。自分の趣味とぴったり重なりはしないけど、世界が憧れや熱狂の対象だらけだった若い頃のことを思い出す。

学生時代に出会った絹ちゃんと麦くんの靴は、偶然にもおそろいのスニーカーで、サイズもほとんど変わらない。社会人になって生活が変わり、人が変わり始めると、靴も変わって、麦くんのは営業で履く用の重そうで大きい革靴に。絹ちゃんのはコリドー街でリーマンの名刺を収集できそうな華奢なつくりの靴に。違っていってしまう二人を端的に表す機能的な描写、嫌いじゃない。ただいくらなんでも麦くんの靴大きすぎるような。あれはギャップを表すためにリアルサイズより上のを撮ったのでは。そんなどうでもいいことを思ったり。

どうでもいいといえば、麦くんと絹ちゃんが初めて二人で飲んだ座敷居酒屋、「最高の離婚」で光生と灯里がジュディマリの話とか夢中でする居酒屋と雰囲気がよく似ている。ああいうところで通じ合って話し込んで、あれが死ぬほど楽しいの知ってるけど、もう私は「知ってる」っていうか「知ってたこともあった」感じで懐かしせつない。

イヤホンの右と左を分け合って音楽を聴く話は、私は途中まで、冒頭のカフェのシーンが終電の改札で出会うより前のエピソードだと思っていたので(目が合って席に戻るのは、他人を見て我に返ったのと、その他人が好みで気がそがれたのだと思っていた……)、最後で、ああそうかと思って、そういうマヌケは私ぐらいだとしても、とにかく悲しく終わらないでくれてよかった。
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