このレビューはネタバレを含みます
麦が言う「僕の夢は絹ちゃんとの現状維持だから」(原文うろ覚え)という言葉に少し引っかかりを感じていたら、そこを起点にすれ違っていってしまい、やるせなくなってしまった。
社会に対して一度は自由を求めて同棲を始めた2人。その現状を維持するために社会に出る覚悟をする麦と、麦の言葉がきっかけで得られた今の生活を維持しようとする絹。
絹の就活時に麦がかけた言葉を、今度は絹が麦をたしなめる際に言ってしまうのが悲しかった。なにを維持したかったのかがだんだん違ってゆく2人を、苦々しい気持ちで見届けた。
ジャックパーセルが革靴に変わり、コーヒーがコンビニに変わり、それでも気持ちは変わらなかった2人のはずなのに、最後までトイレットペーパーを持ち続ける麦と、それが花束に変わっている絹。
それは結婚式での2人の全く同じモノローグと、最後のファミレスでのすれ違う会話をを暗示しているようで、ただ悲しい。
劇中に散りばめられた、音楽や本、イラストや舞台(押井守まで本人役で出てくる)はすべて現実に存在するものたちかつ時間軸もぴったり合っていて、それらを好きな鑑賞者が否応なしに自分をリンクさせてしまう仕組みになっていることが、物語をさらにエグいものにしている。