蟬丸

花束みたいな恋をしたの蟬丸のレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
5.0
5点であり、0点でもある。が、とりあえず5点にしておく。

良かった点としては、かなりリアルだったということが挙げられる。きのこ帝国とか羊文学とか今村夏子とか、ブルースブラザーズのTシャツとかAKIRAの漫画とか、一度通ったものや今も触れてるような音楽、文学、映画とかがたくさん出てきた。お互いに共通のものを見出して高まっていった劇中の絹と麦のように、僕もこの映画と自分の間に共通のものを見出して昂りを感じていた。なにかを共通のものとして持っている、というのはとても気持ちの良いことである。初対面でもそういう人は味方に見える。お互いに。またライフステージ的にも、僕もちょうど最近働き出したくらいなので共感できる(が、したくない)ポイントは抑えられていた。特に終盤にかけてはふつうに泣いてしまった。やはり自分と重ね合わせることのできる映画は、5点をつけざるをえない。

以下、0点な点。
まず、運命的な出会いを果たした感じが出ているが、それがサブカルチャーを介して果たされてるのがなんともしゃらくさい。というか、全体的にしゃらくせえな、と思う箇所がいくつかあった。ウノとかジャンケンとか白デニムとか。サブカル的選民意識は、時として凡人("個性的"な自分たちも所詮十分凡人の範囲に入るのだが、)を見て「こいつら分かってないなあ」という感覚を生み出してしまうことがあり(自分の身に覚えがえるだけかもしれないが)、非常に危うい。それは前述の昂りと表裏一体ではあるけれども。

とにもかくにも共通の趣味があるのは良いことだが、それは単なる入り口であって、それ自体は別に本当の愛ではないだろう。つまり、趣味を共にして、ドキドキしてなんとなく付き合って、最後は趣味とか人生への考え方ですれ違って関係を解消する、というのはあまりにも軽薄なのでは、という印象を持った。なんというか、2人には最初から出口がない感じが見えていたようにすら思えてくる。もっと真に迫った人間交際を見せてくれよ、と叫んでしまいそうになる。一緒にいたい、という思いの本気度の根拠はなに?と問いたくなる。
いや、その軽薄さも含め実際めちゃくちゃリアルではあるし、その点が5点つけられるポイントではあるのだけれども。

なんとなく、サブカルチャーがダシに使われてるような感じ、というのが1番近いかもしれない。ダシに使われてこそのサブなのか。
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