ベイビー

花束みたいな恋をしたのベイビーのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.0
スタートから坂元裕二節が炸裂していましたね。ただの屁理屈をさも正論のように語り伏す台詞回しは聞いていて心地良いです。でもその台詞の一つ一つがとても重要で麦と絹の世間から少しズレたキャラを明確に色付けしてるんですよね。

冒頭のキュンキュンとさせられる恋愛の始まりから、中盤からの重く切ない斜陽の兆し。二人は4年という道のりを共に歩んで来たつもりでしたが、微かに歩幅も違いますし、見える景色も違っています。

それはイヤホンの"L"と"R"と同じこと。ステレオ音楽をイヤホンで聴けば"L"と"R"で流れてくる音は異なります。恋人同士が一つのイヤホンで一緒に音楽を聴くというのは、同じ音楽を聴いているようで実は全くの別物の音楽を聴いているということ。

一曲の音楽に対してイヤホンは一つずつ。
それと同じように恋愛も一人に一つずつ…

想いがいつまでも変わらないというのは美しいことなのですが、しかし時間というのはいつも残酷で、砂上の城を波がさらうように、時間という波が少しずつ人の心の形を変えていきます。

モラトリアムな時期に出会い、フリーターになって互いの"好き"を尊重し、そして社会人になって、二人は違うステージに進んでしまう。

奇跡のように思えた出会い。
永遠だと信じた確かな想い。

"好き"を確かめながら寄り添い合って、だらしなく甘い時間の流れに身を委ね、そして時の経過は現実を知らせ、大切だった思い出を過去に置き去りにして行きます。

この花束はあなたとの思い出。この一本々々には色があり、匂いがあり、名前もあるあなたと過ごした大切な時間。もうその頃には戻れない、二人で作った美しい思い出の束…

誰もが一度は経験するだろう恋の話。純粋な恋愛を成就させる人はほんの一握りの人で、多くの人は記憶に蓋をして鍵をかけたくなるような恋愛の一つや二つの思い出は持ち合わせているのではないでしょうか?

今作を観ていて自分に突き刺さる言葉やシチュエーションが多く、ほんの些細な過ちや食い違いを引き摺ったまま、相手との距離が離れて行った時の記憶が思い出されました。

とにかく脚本が素晴らしいですよね。キュンキュンと心躍らせる冒頭から、ジリジリと胸を焦がすようなラストまで、誰もが身に覚えのある恋愛のど真ん中をこれほどまで丁寧に描き出せるなんて本当に素晴らしい。ドラマでもそうですが、坂元裕二さんの筆力には只々圧倒させられてしまいます。

そしてこの物語の時代の流れを見事に演じ分けた菅田将暉さんと有村架純さんの演技もとても良かったです。

あと、押井守監督を"神"としているのが最高。絹の言うとおり押井守監督を好きか嫌いかは別として彼の存在は世界レベルで認知されるべきだと思います。
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