かめの

花束みたいな恋をしたのかめののレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.1

花束のように美しく見え、花束のように「その他大勢」と同じ恋。

同じ趣味を持つ麦と絹はそれゆえに近い感覚を持っていたと思うんだけど、たった1つのボタンのかけ違いが次の違和感を生んで、もう戻って直すことが出来ないところまで来てしまって、別れるしかなかったんだと思う。

こうやって大学生から社会人になる過程で、仕事を間に挟んでこじれる恋人って多いと思うけど、極端に言えば➀彼のことは好きだし、結婚も視野に入れてるから現状維持で(無心モード)、となるか、②他に好きな人がいる(ほしい)から別れたい、となるかの2通り。そして、絹は後者だった。

絹は、2人で暮らすためにちゃんと働いてくれて嬉しい!と思う人じゃなくて、もっと好きなことを共有しあえる生活がしたかったんだよね。

それぞれ別れ話をすると決断していたはずのに、麦の方がとっさに結婚を持ち出してしまうところに5年という長さを感じるし、恋愛って楽しくない苦しい辛い、どうか別れて別れないで、と感情がごっちゃになった。

当たり前のように年齢を重ねていく上で、歩く道が交わらなくなってしまっただけ。どちらが悪いのでなく、お互いその相手では駄目だっただけ。その描き方が絶妙で、こうした過程を描けた作品がかつてあっただろうか?とすら思えるほどだった。

別れた後も新しい部屋が決まるまで一緒に住み続けるのはどこか非現実的だけど、絹が1度くらいは浮気したことあるよね?と問いかけるシーンが面白い。

その時の絹の反応を見る限り、偶然電車で麦と遭遇するシーン、あの時絹が彼のもとへ駆け寄らなかったのは二人の冷めつつある関係を示すだけでなく、それまでオダギリジョー(名前を忘れてしまうほど、オダギリジョーがオダギリジョーだった)と一緒だったことへの後ろめたさがあったからじゃないか、なんて考えてしまった。


そして感傷的に落とさず、正々堂々、明快な未来を提示したラストには思わず拍手を送りたくなった。その心意気がまず素晴らしいじゃないですか!

皆が良いという作品にはやっぱりそれなりの理由と面白さがあるんだね。これからは少し、信じます。


【補足】
『なんとなくクリスタル』を肌感覚で理解できなかった世代なので、今回出てくる小説、映画全ての固有名詞を共有できたこと自体に感動した。

サブカルはもうサブカルチャーじゃなくなったのかもしれないし、そこに意味を見いだせなくなる日も近いかもね。 
かめの

かめの