もりかわ

花束みたいな恋をしたのもりかわのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
3.9
面白かったです。爽やかなパッケージに包んだグロテスクな映画という印象でした。

テーマには共感できなかったけど、麦と絹がお互いを意識し合い、付き合い、同棲する過程の純度の高いやり取りにニヤニヤしてました。付き合う前はサブカル度が高くて絹に「ウッ」となること多かったけど、付き合い出した後の有村架純が可愛くて、可愛くて…ありがとうございますと思いながら観ていました。

▶︎ 『LA LA LAND』と違った切り口

一方で、麦が就職してからテーマ性が強くなると、麦のキャラクターが一気に記号化したり、絹が麦に冷めていく理由を追っていく感じがしてしまうので面白みは無くなっていく。

すれ違いという点では『LA LA LAND』と同じはずなのに、『LA LA LAND』は感動できて、『花束』は感動できなかった理由をつらつらと書いていく。

▶︎そもそもすれ違っていた二人

共通の趣味で惹かれ合い、付き合うことになった麦と絹がすれ違い、別れるまでの話。

麦と絹は偶然同じ終電を逃し、サブカル趣味が講じて付き合うことになるけど

・絹との生活を続けるために就職した結果、心がすり減っていく麦
・ずっと楽しく生きていきたい絹

というすれ違いが大きくなり、そして決定的になる。

この時点で『LA LA LAND』と決定的に違うなと思うのは、

・麦は絹とずっと一緒にいたい
・絹は楽しく生きていたい

であって、絹は「麦と一緒に楽しく生きていたい」訳ではないところ。もしかすると絹は麦がいなくても、一人で映画を見て、本を読んで、それをブログなどで呟くだけでも満足できたかもしれない。そこに、麦という共通の話題ができる人がいたから喜びが倍になり、付き合うことになった。

共通の趣味があり、共有できる喜びが増えることは素敵だけど、『花束』では最終的に「趣味は自分で楽しむことが大事」というメッセージに終着していると思う。それは、有線イヤホンを片耳ずつで聴いていた二人が、「イヤホンは両耳で聴かないとダメだ」と意見を変えるところに現れている。冒頭のシーンが、実はこの物語のメッセージの骨子なのだと書きながら気がつく。

▶︎リアルかもしれない、からっぽな二人

それも踏まえて、『LA LA LAND』に比べると、二人は空っぽなんだ。正確には、

・相手の内側(夢・情熱)にあるもので結ばれた二人

・お互いの外側(趣味・知識)にあるものを出し合うことで結ばれた二人

の違いがある。絹は麦が「電車に乗る」ではなく「電車に揺られて」と言葉を選ぶところに惹かれる。麦は絹が「じゃんけんでパーがグーに勝つはおかしい」考えるところにシンパシーを感じる。二人の好きな理由はおしゃれにも思えるけど、不思議とお互いがお互いをリスペクトしている/できる部分が描写されていない。

加えて、二人が付き合って影響を与えている描写もない。麦の「現状維持」という言葉は芯を食っていて、二人は現状維持しかすることができないんだと思う。一緒にいて心地いのは、自分と相手が似たものが好きで、似たように感じることで安心できるから。

麦は就活する必要なんてなかった。だけど、せずにはいられなかった。それはお金の問題もあるけど、本当はどこかこの生活を続けることに飽きていたからじゃないのか。根本の問題は、麦が就活することですれ違ったのではなく、そもそも、お互いが相手の核となる部分を掴めてはいなかったからではないか。

▶︎キャラクターの原動力、大事

だから、大事だと思うのは、キャラクターの原動力。これが弱いと、脚本に動かされているように見えるし、キャラクターが記号的になるので、連載漫画の主役には耐えられないものになる。

映画としてはすごく面白かった。大学生の時に観ていたら刺さりすぎて血を吐いていたと思う。
もりかわ

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