アニマル泉

静かなる男のアニマル泉のレビュー・感想・評価

静かなる男(1952年製作の映画)
5.0
フォードの「心意気」の一作だ。フォードは「詩情」が代名詞だが、本作は「詩情」と「心意気」の見事な融合である。
モーリン・オハラが素晴らしい。常に走り回る、動物的な躍動感が圧巻だ。驚嘆するのはクライマックス、ジョン・ウェインがオハラを駅から町まで5マイル(8キロ)引き摺る壮絶さだ。ウェインがお構いなしにどんどん引っ張っるので、オハラは最初は物を乗り越え、飛び越し、靴が脱げ、遂には倒れるがウェインは容赦なく倒れたままのオハラを引き摺っていく!唖然となる。そして最後はヴィクター・マクラグレンにオハラを投げつける!フォードの女たちは強い。オハラは体も強いし心意気もある。ウェインとようやく夫婦になったと思ったら家出、持参金がないことにこだわってウェインが迎えに来るか賭ける、案の定ウェインが来て前述の壮絶な引き摺りに耐え、マクラグレンにウェインが「持参金を払え!」マクラグレンから金を取り上げるとなんと、その金を焼却炉に投げ込んでしまう!すると、これまたなんとオハラが会心の微笑みで、これで良しとうなづくとウェインとマクラグレンに「先に帰って夕食を作っておく」と告げて去っていくのだ。これまた呆然となる展開だ。あとはウェインとマクラグレンの映画史に残る延々と続く殴りあいが始まる。オハラの赤毛と衣装が青と赤とエプロンなのが良い。
ウェインとオハラが間近に出会うのは強風の夜だ。ウェインがフリン(バリー・フィッツジェラルド)を仲人に立てるがプロポーズをマクラグレンに潰される場面はフォード十八番の雨だ。雨が流れるガラスごしのオハラのショットが美しい。そして結婚式、二人が歩くあとからフリンが馬車でついていくのが面白い。二人は自転車でフリンの馬車をまく、行き着いたのはなんと墓場、突然の雷雨のなかのキスシーンが可笑しい。フォードは「雨」だ。
頻出する川が美しい。美しい自然の中で、川を渡りながら走る競馬の場面が印象的だ。フォードは「馬」が出てくると活きいきする。
フォードの映画では金はばらまくものだ。金はありがたがられない。机にコインがばらまかれ、お札はなんと焼却炉に投げ込まれる。
フォードの映画では酒はぶっかけるものであり、酒瓶は投げつけるものだ。
「投げる」主題は、ウェインが結婚式でフリンの馬車をまいてオハラとやっと二人だけになって、帽子を空へ投げ飛ばす。しかし初夜に夫婦仲がうまくいかずにウェインがなんとオハラをベッドに投げ飛ばす、ベッドが大破する。ここも唖然とした。翌朝、壊れたベッドを見たフリンが「なんと激しい情事なんだ」と言うオチが笑えた。
歌の場面が素晴らしい。
リパブリック制作、テクニカラー・スタンダード。
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