じゅ

ブレイキング・ニュース・イン・ユバ・カウンティのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

10人かー。えらいことになったなあ。

存在感がなくて尊重もされず、ただ目立ちたかったスーさん。自分の誕生日に夫が不倫相手と会ってるモーテルに行ったらまさに真っ最中で、あまりの事態に夫が心臓発作か何かで死んで、モーテルの庭に埋めて拉致事件をでっち上げる。夫に資金洗浄をやらせてた中国マフィアと、中国マフィアとの繋がりを知る夫の弟や関係に巻き込まれた同僚、事件を追う刑事に、夫の死を知る不倫相手、事件をネタにニュースキャスターとして有名になりたいスーの妹や、大手メディアを巻き込む大事件に。注目や同情を集める快感に取り憑かれたスーは、やたら上手い泣きの演技や突発的で大胆な嘘を積み重ねて事態はどんどんあらぬ方向へ。
最終的には、スーの嘘を知る者や、妹以外で嘘を暴きうる者、その他複数名の死者を出し、ついにスーの嘘はアメリカ中の誰もにとって真実になってしまう。ついには本まで出し、大物キャスターに共にそれぞれ本を書いてツアーに出ようと提案までし出す。


夫と不倫相手と同僚の3人、スーに疑いを持つ刑事と相棒の2人、中国マフィア3人、スーの義理の弟が務めるリサイクルショップ店員2人。スーの目立ちたがりのために10人もの死者を出したか。
エマという失踪した少女の両親が大々的にメディアに取り上げられて羨ましく思ったかしらんけど、ちょっと目立ちたかった程度のことでここまで事態が発展する脚本すげえなあ。なんやらアファメーションが云々とか有名になることがどうのとかテーマ性がありそうだったけど、表面的なストーリーだけで既におもろいんよ。

それにしてもあんなごっついドリルのボール盤で頭貫きますか。大学生の頃ボール盤で頭貫かれる悪夢を見たことあったけど、こりゃあもう1回コースだな...。


アファメーション(affirmation)って、素直に辞書引いたら「断言, 確言, 肯定, (宣誓に代わる)確約」だそう。weblio調べ。どっかのサイトでは「なりたい自分になるための、言葉による思い込みづくりのこと」って書いてた。自己暗示の特に肯定的なことなんだと。
世界のどこかにいるであろうちゃんとアファメーションやってる方々には本当に悪いけど、まあ気味の良さそうなもんには感じないな。作中で最終的に気味悪いものとして描かれてたからかな。

そのアファメーションの暗部を含めて、「夫が失踪したの」で全てがまかり通りすぎる悲劇のヒロイン(嘘)とか、注目を浴びるとか有名になることこそ至高の価値だみたいな価値観とか、やたら気味悪かったんだよな。
何がそこまでの嫌な感じを醸し出してたんだろう。押し付けがましさなのかな?matterだのimportantだのstrongだのenoughだのなんだのの理想像を自分自身に押し付けるとか、不都合なときに別の重要な事情(嘘)の話を押し付けるとか、命のやりとりで有名になる価値を押し付けるとか。

てかスー視点で見ても、どういうわけか300万ドルを追っててどう見ても警官じゃないけど銃を携帯してて話を誤魔化そうとすれば躊躇なく妹の脚を撃つような野郎が表舞台で有名になりたい人なワケがないんだよなあ。
てかハリス刑事のためにしたことが救急車呼ぶとかじゃなくてあなたは有名になれるって励ますことかー。二階級特進のノリでそんなん与えられてもなあ。てか警察内部で唯一自分のことを疑ってた人物だから見殺しにした感も強い。都合の悪い事実をネタに脅迫してきた不倫相手を何の躊躇もなく中国マフィアのミーナに売るくらいだもんな。


不倫相手をどう考えてもやべえ小娘と用心棒みたいな強面野郎にさっさと突き出すし、帰ったら家にいたどう見てもやべえ男から妹に銃口が向いてもなお夫が行方不明だなんだを貫き通そうとする(妹すらそれが嘘だって気づきかけてるのを知ってるのに)し、いかなる状況でも注目されるべき悲劇のヒロインを貫き通すのがスーの最優先事項なのな...。


ツアーを持ちかけた2冊目の本の題名は邦訳で『人生を取り戻し続けろ』とかそんなんだったか。
人生を取り戻すことってスーにとってはどういうことだったんだろう。importantでstrongでenoughな自分になることだったのかな。取り戻すというか創作してるけど。
そうすると取り戻し続けるってより創作し続けるってかんじに映るな。創作の土台になってる嘘を墓場まで持ってけるかというと、夫の不倫相手との怪しいやりとりを録音した妹というどえらい爆弾を抱えてるし、どうかなってかんじ。まあせいぜいがんばってくれ。
じゅ

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