くもすけ

すべてが変わった日のくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

すべてが変わった日(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

落馬して死んだ息子のおとしごを抱えた老夫婦が、嫁の再婚相手の粗暴な家族に子供を奪われる。かつて暴れ馬の調教で腕を鳴らした姑は、再び馬に乗ることを決意する。

監督はトーマス・ベズーチャ。00年処女作「Big Eden」はG・L映画祭で好評され、ロマコメを得意とするオープンリーゲイ。
原作(2013)書いたのはラリー・ワトソン。1993の処女作「モンタナ1948」はインディアン女性への性暴力殺人を扱い、学校でテキストとしても取り上げられているそうな。

■モンタナかノースダコタか
原作では1951年を舞台にノースダコタからモンタナへ移動するのだが、映画は1963春でモンタナからノースダコタと逆になっている。この点について監督は、
ケネディ暗殺の年であることと、ノースダコタへの移動のほうが(その逆より)失墜する様子を表象でき、明るい結末ではない予感を出せる、と。また原作については、血と親族関係についての話。ギリシア神話やシェイクスピアのようで、戦いを求めて地上を跋扈する神々の存在を感じさせる、と。
続けてキャラクターについて、ブランチとマーガレットはコインの表裏、かたや明るくかたや暗い。どちらも家族を守るために戦う。マーガレットとジョージは牧場を急襲され孫を失うが、取り戻すには何かを代償にしなければならない。ブランチはそのボス級ヴィランにあたり、この単純さが気に入っている、と。
なんだか神話やスーパーヒーローに強引に寄せたコメントにも見えるが、確かに人物の動機は至極単純。https://www.popmatters.com/thomas-bezucha-interview-2650169139.html

■レッドパワー前夜
モンタナ、ノースダコタ両州ともグレートプレーンズに属し農業がさかんで、広大な山と川と先住民を抱えている。ノースダコタは下から数えて全米4位の過疎った州で、目立った観光地がなく訪問者の数が最も少ない州と見なされている。ウィーボーイ一家が棲むグラッドストーンは人口200人をくだる。
少し足を伸ばしてサウスダコタ州まで行けば全米最貧困地域のパインリッジ・インディアン保留地があり、これは「ザライダー」の舞台。

ピーターが同化政策で学校に入れられた苦い過去を語っていたが、彼の故郷は一瞬地図が映るサウスダコタ州ローズバッド・インディアン保留地付近かと思われる。

1953年連邦支援打ち切り政策により補償金のかわりに都市への移住を飲んだ少数部族が消滅する。これは1934年再組織法に始まるインディアンニューディール政策へのバックラッシュ。60年代になると都市に移り住んだ若いインディアンたちが権利回復運動を盛り上げていく。映画の舞台1963年はその曙の時期にあたる。保留地はこの10年で全米最低レベルの貧困に陥るが、アメリカもまた戦争と権利運動の混乱で激動の時代に突入していく

長々書いたが映画はインディアン保留地を通り過ぎるだけ。矍鑠たるダイアン・レインが嫁との関係をむずむずさせながら、麗しすぎる孤独なピーターに文字通りの目配せを送ってる