かじドゥンドゥン

ナイン・デイズのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

ナイン・デイズ(2020年製作の映画)
4.0
「あの世」で、複数人を面談・選抜し、「この世」に送り込む役人がいる。その一人ウィルは、新たに「空き」ができたため(つまり彼がかつて送り込んだ一人が死んだため)、9日間かけて新生候補者を選ぶことになった。各人に究極の選択を突き付けて回答を求め、あるいは現在生きている人間たちの体験をテレビで鑑賞したのち報告書を書かせるなどして、人間性を基準に候補者を絞ってゆくウィルだが、彼自身、かつて一度生きたことがあり、しかし世界に受け入れられず、心の傷を抱えたままあの世に舞い戻った、美しくも病んだ魂だった。さらに、彼が送り込み、画面越しに20年以上見守って来た女性ヴァイオリン奏者アマンダが、コンサートの直前に自殺し、その美しい音色を聴くことはもうなくなった。彼は自分が選び信じた者の自死に責任を感じ、その事実を受け入れられずにいる。

人生の苛酷さとともにその甘美さも知っているはずのウィルが、心を閉ざし、生を肯定できぬまま、職務として新たな魂を生へと送り出している。歪んだ現状。ところが、候補者での一人あり、最後の最後で脱落した女性エマは、ウィルの魂のわだかまりを見抜き、一通の置き手紙を通してそれを氷解させる。ウィルは、生きる悦びを悲しみとともに受け入れ、自らの生を(その死と合せて)肯定して、エマを送り出した。(選考に漏れた者は永遠に消え去ることになる。)感動の人生賛歌。