kogureawesome

木靴の樹のkogureawesomeのレビュー・感想・評価

木靴の樹(1978年製作の映画)
5.0
19世紀末のイタリア。地主が大きな力を持っていた頃の農民の日常を季節の移り変わりとともに描いた作品で、読み書きの出来る者が少ない村から小さな子供が片道6キロの道のりを徒歩で通学するようになる。その子供の為に親は靴が必要になり、悲劇が起こる。舞台となったベルガモはオルミ監督の生まれ故郷だ。

ドキュメンタリータッチで農民の生活を描いている。アンドリュー・ワイエスの絵画のような質感も感じる。

畑を耕したり、洗濯したり、恋をしたり、親子喧嘩をしたり、教会に行ったり、お祭りがあったり、家畜のいのちをいただいたり、子供が生まれたりする。この映画の登場人物が歩いているシーンが特に好きだ。

アルゼンチンの短編小説にこの映画のことが出てくる。
娘がハリウッド映画のビデオを買って欲しいという。買うかわりに、まず主人公が買った『木靴の樹』のビデオを先に自分に観せることを条件にする。ビデオを再生させると興味のなかったはずの家族も3時間という長い間、誰一人席を立たず、「魔法にかかったように」映画に釘付けになる。フィクションなのに「まるですべてが目の前で起こったことのように不幸な人たち」をじっと見つめ続ける。
私もずっと昔、録画していた『木靴の樹』のビデオを深夜に見始めて朝方まで、小説の家族と全く同じように釘付けになって一気に観たことがあった。その間はイタリアの農村で登場人物達と一緒に過ごしたような気持ちがした。
その小説を書いたマヌエル・プイグは大変な映画好きで若い頃、イタリアで映画の助監督もしていた人。小説のタイトルは「昨日の映画、ありがとう」。

キアロスタミが好きな人にオススメしたい。
kogureawesome

kogureawesome