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ダーティハリーのkaneのレビュー・感想・評価

ダーティハリー(1971年製作の映画)
2.7
ダーティハリーは現実にいやしない。だからこそ観客は彼に憧れ、勧善懲悪的なその行動を痛快に感じる。

悪役は清々しいほどの中身空っぽのクズ野郎。クズ度が高すぎてちょっと面白みに欠けるが、ダーティハリーが犯人を追い詰めるたびにこちらも一緒になって気分が高揚する。ラストシーンは有無を言わせないほどに爽快である。あるいは裁かれるべき悪が裁かれての安堵と言ったほうが適当かもしれない。

特別欠点があるような作品ではないが、僕は終始乗り切れなかった。犯人や(テーマとは別の部分の)警察側の手際の悪さにもイラついてしまったことと、全体のテンポが体質に合わなかったことも多いにあるのだが、最大の理由は、ダーティハリーは現実にはいないということだ。言うまでもなく我々はダーティハリーが存在しない世界に生きている。実際は映画内の腐敗した体制の中におり、それを懲悪してくれるようなヒーローはどこにもいない。それゆえに本作にカタルシスがあるのだが、僕には綺麗事にしか聞こえなかった。
公開当初と時代が異なるという前提はあるが、ハリーがフィクションの中で踊る道化にしか思えない。

善悪があまりにも短絡的にはっきりしてしまっていることに加え、理想を描く解放的な映画よりも現実の残酷さを突きつけてくるような映画を好む僕のマゾ的嗜好もあるのだろう。もしくは、同じ事件を題材にしながら、リアルの不条理さを徹底して描いたフィンチャー監督の「ゾディアック」を先に観てしまったことが原因なのかもしれない。ゾディアック劇中の刑事のように途中で鑑賞を投げてしまいたくて仕方がなかった。
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