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真実 特別編集版のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

真実 特別編集版(2019年製作の映画)
3.6
『真実』(La vérité)2019

「私は女優なのよ。本当のことなんか書かないわ」

「チャリティーや政治に口を出す女優は女優っていう仕事に負けたのよ。スクリーン上の戦いに負けた人が現実に逃げ込む。私はずっと勝ってきた」

先日ベルイマン監督の『秋のソナタ』を観た。著名な母親と娘という設定で『真実』を思い出して観てみた。

『秋のソナタ』は母と娘の激しい対立が描かれていた。『真実』はもっと穏やかで対立というよりは母と娘の相互理解だった。

セザール賞(フランスの映画賞、アカデミー賞に匹敵する)を3回受賞した大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と脚本家の娘リュミール(ジュリエット・ビノシュ)。

ファビエンヌが自伝『真実』を出版するお祝いに久しぶりにアメリカから夫と娘を伴って帰国した娘は自伝では母と子が仲睦まじく描かれていてクレームをつける。しかしそれはこの映画の主題というほどでもない。

母は娘が女優になることから逃げ出して脚本家になったと思っている。娘は『秋のソナタ』の娘ほど母を恨んではいない。

この母と娘の関係と並行してファビエンヌが撮影している映画の現場が描かれる。彼女が出演しているのはSF映画。『真実』の脚本のクレジットに是枝裕和と並んでケン・リュウの名前がある。どうやらこのSF映画はケン・リュウの短編『母の記憶に』が原作のようだ。

『母の記憶に』は余命2年と宣告された若い母親が娘の人生と寄り添うために超光速宇宙船で宇宙旅行に出るという話。十数年ごとに地球に戻り娘と再会する。娘は10代、20代、30代と会うたびに年齢を重ねていくが母親はウラシマ効果で25歳から2年経過しているだけ。80歳になった娘の最後を若々しい母親が看取るという話。

SFならではの美しさと悲しさに満ちた話。

ファビエンヌは歳をとった娘の役。若々しい母親は新進女優が演ずる。ライバル心を隠さないファビエンヌ。

ファビエンヌは男性パートナーと同居している。「魔法で亀に変えられた」元夫が人間の姿で現れる。献身的なマネージャーは自伝に全く描かれていなかったことに怒って辞職する。ファビエンヌは娘に謝罪の台詞を書いてもらい和解する。

多様な人間模様が軽やかに描かれている。出会って暮らして別れてまた帰ってきて。風通しが良い家族関係、人間模様が日本とは違うフランスらしい感じ。

娘はフィクションであるセリフを使って母親の心を動かす。嘘も真実になっていくだろうという粋な場面だった。

終わってみるとカトリーヌ・ドヌーヴ讃歌のようだった。
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