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カモン カモンの821のレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
4.0
Fan’s Voiceさんの試写会にて。
良き!!始終マイク・ミルズ監督らしいあたたかな眼差しに溢れていて、じんわり、心の温まる優しい作品でした。白黒で映し出される、伯父と甥っ子の絆を育む物語。抱きしめたくなるような優しさを帯びていて、とても好きでした。

以下、ネタバレにはならないと思いますが、大まかなストーリーには言及しているので、鑑賞後に読んでいただく方がいいかもしれません。鑑賞前に情報を入れたくない方はどうぞスルーしてください!


急遽甥っ子ジェシーの面倒を見る事になった伯父のジョニー。子育て経験は勿論ゼロで、少し風変わりなジェシーとの手探りのような毎日を過ごしてゆく。その中に差し込まれる「アメリカ中の子どもたちのインタビュー」。インタビュアーとして働くジョニーの従事するプロジェクトで、この子どもたちのインタビューも通じて、本作はデトロイト、LA、NY、ニューオーリンズの4都市にもスポットライトを当てるロードムービーの様相を帯びていた。

マイク・ミルズ監督の作品は『人生はビギナーズ』しか見た事がないけれど、リアルな人間関係の描き方が見事だと思った印象があって、本作もそうでした。ジェシーとジョニーの伯父と甥の関係。ジェシーとヴィヴの母息子関係。ジョニーとヴィヴの兄妹関係。それぞれの間にある、言語化できない愛情だったり、ちょっとした歪さだったり、すれ違いだったり。それらがとてもリアルに表現されていたと思いました。特に響いたのがジョニーとヴィヴの兄妹関係。それまでも「そこまで近しくなかった」ようなことが言及されていましたが、母の介護と死を通して関係に少し歪みやズレが発生する様は、自分の親族の様子を見ていて感じていた事で、とてもリアルのように思えた。過去にジョニーがした「助言」についても、“家族”とはいえ踏み込んでもいい領域、良くない領域があり踏み込み度合いも今後の関係に大きく左右してくる。“家族”という近い関係だからこそ、その「助言」には大きな意味があり、将来に及ぼす影響も大きい。そんな絶妙な距離感や繊細さが見事に映し出されていました。

少しズレが生じてしまった兄妹関係が、9歳の子どもの存在をとおして修復されてゆく様も、温かくてよかった。試写後のQ &Aでも監督がおっしゃってましたが、大人は仮面をかぶる。意固地になる。素直になれない。
その反面、子どもは率直で、痛いところも容赦なく突いてくる。そんな子どもの素直さに救われる部分がたくさんあるのが、とても素敵だった。みんな完璧な存在ではないけれど、お互いを補いつつも前へ前へすすもうとしているところがとても好きだった。

個人的な本作の魅力は、そんな人間関係のリアルが描かれていたところ。柔らかな劇伴と、白黒の色調が生む映像の優しさが相まって、抱きしめたくなるような作品になっていました。とにかく、優しいホアキンが良かったし、9歳ながらも年齢以上の知的さと子どもっぽさを表現したウディくんが素晴らしかった。

そして、子どもの目線をとおして今を担う私たちに責務を問いかけてくるところも、刺さる点だった。インタビューは実際に子どもたちにリアルに行ったものだと聞いてびっくりする(そしてカットしたインタビューが、全体のたった2人で、ほとんどが映像に採用されているのにも心底驚く)。
さらに、ニューオーリンズでインタビューを受けた子の1人が、その後街角に座っている時に流れ弾に当たり命を落としたと聞いて、絶望的な気持ちになる。作中子どもたちが訴える、この世に対する問題とその解決について、それらが急務であることを改めて実感しました。
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