おなべ

カモン カモンのおなべのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
3.7
◉「C'MON C'MON…」=◯◯、◯◯

◉子育て経験のない伯父と、風変わりで友達のいない甥との、初めての共同生活。慣れない環境に戸惑いながらも、数日間の濃密な交流を通じて少しずつ成長してゆく2人を描いた、心温まるヒューマンドラマ。

◉NYを拠点に活動するラジオジャーナリストのジョニーは、妹が家を留守にする数日間、9歳の甥 ジェシーの面倒を見る事に。子育て経験のないジョニーは、自由で突飛な行動をする甥の扱いに困惑し…。

◉気鋭の映画制作スタジオ「A24」×『20センチュリー・ウーマン』の《マイク・ミルズ》監督。

◉本作は全編通してモノクロ仕様になっている。監督のインタビューによると、モノクロを採用する事で、現実の日常風景と切り離した寓話をイメージさせたという。すなわち、これはあくまでも“物語”であり、“物語”である事を意図させる手段としてモノクロを採用したんだとか。とにかく、カット割りや構図しかり、どこを切り取っても見映えする映像美が印象的だった。

◉『ジョーカー』での怪演が記憶に新しい《ホアキン・フェニックス》。本作での物腰柔らかな役柄とは振り幅がありすぎて違和感を感じるも、非の打ち所がない安定の好演で、演技を通して伝わる小さな心の機微に惹きつけられた。

◉加えて、甥を演じた《ウッディー・ノーマン》の自然体の演技がかなり良かった。と言うのも《ホアキン》曰く、「彼の驚くほど自然体でリアルな演技に引き込まれ、彼に対して反応するだけでよかった」という。甥役を決めるオーディションでアドリブで見せた演技が決め手で、監督も《ホアキン》も「この子や!」と思ったというエピソードも頷ける、魅力的 且つ 素晴らしい好演だった。

◉作中では、様々な家庭環境や事情を抱え持つ子ども達にインタビューするシーンがある。そこでのインタビュー内容は脚本の中の台詞ではなく、実際に収録した内容をそのまま採用している。寓話的な本作に、彼らのリアルな声を取り入れる事で、フィクションとドキュメンタリーの垣根を超えた、よりテーマ性の深い物語へと昇華させたと言っても過言ではない。

◉子どもに教わる人生の本質。大人になるに連れて見識を深めていたつもりが、知らず知らずのうちに“常識”や“固定観念”に囚われ、「大人はこうあるべきだ」「普通の大人であれば こうしなければいけない」というように、様々なしがらみに縛られてゆく。

◉対照的に、本作に登場したジェシーやインタビューの子どもたちは、自分の考えや思いを縛りのない自由な発想で、それも自分の言葉で伝えている。子どもを育てていく中で、実は子どもに教わることがたくさんあり、そうやって大人はまた成長してゆくのだと思い知らされた。

◉子どもは“未成熟なもの”だという決め付けも、教養の押し付けもよくない。ちゃんと子どもと同じ目線に立ちながら、彼らの気持ちに寄り添い理解しようと努め、その上で、あるべき方向へと導いてあげる事が大事なんだと考えさせられた。

◉同じように日本の子どもにインタビューしたら、どんな答えが返ってくるのか、面白そうだなぁ…。
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