Hiroki

カモン カモンのHirokiのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
4.3
マイク・ミルズ×ホアキン・フェニックス×A24スタジオという最強の組み合わせの今作品。
今年の前半戦で1番の楽しみ。
もー私はとにかくマイク・ミルズの作品が大好きなのに、この人は全然新作を撮らないので首を長くして待っていました。

「自分の目で見て愛する人について考えながら、ジャーナリストのように脚本を書くのが好き。」と語るマイク・ミルズは自分の身近な存在をモチーフに映画を撮ってきた。
『人生はビギナーズ』では父親を。
『20センチュリー・ウーマン』では母親を。
そして今作ではミランダ・ジュライとの間の息子について描いている。
発想は息子をお風呂に入れている時。
とめどなく色んな所から話が飛び出してくるようなダイナミズムをぜひ映画にしたかったと話していた。

今作がモノクロ映画なのは“親密さ”を表現するためらしい。
「絵の具を使った絵画ではなく、素描や線画のように力みがなくシンプルでもったいぶった感じがない映画にしたかった。」
このインタビューを聞いてすべて理解できたような気がした。
この映画を一言で表すならまさに“close”=“親密さ”だ。
それは主人公ジョニー(ホアキン・フェニックス)と甥っ子ジェシー(ウディ・ノーマン)や妹ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)の関係性というよりは、映画と私たち観客の関係性。
こんなにもスクリーンの中を親密に感じたのは久しぶりだった。本当に映画館を出たその角で起きているような。
言語も場所も違うはずなのに、音楽が撮影が役者の表情や息づかいやちょっとした仕草が、すべての要素が自分の細胞ひとつひとつに馴染んでいく感覚。
自分の中にスッと入り込んでくる事に少しびっくりもした。

もう一つの大きな要素はオープニングから始まり各所に散りばめられる子供たちの未来への言葉。
実際に聞いた生の子供たちの声。
もーこれを聴いてるだけでもちょっと私は泣きそうになってしまったのですが…
「本当の事が物語と混ざって物語をより強くする。リアルとフィクションが混ざる事によって、より人生らしくなる。」
まるでフィクションの人物たちがリアルな声に背中を押されていく。この融合はまさに魔法のような時間だった。
録音は永遠に残るから好きだと話していたジョニー。
忘れる事と忘れない事。
少し『ペンギンハイウェイ』を思い出した。

最近の映画のトレンドは“コミュニケーションの不在”で今作の中心にあるテーマもまさにそれ。
こんなにもはっきりと“人と人は理解し合えない”と突き放す物語も珍しい。
人間はそれぞれが皆違う個体であり、同じような環境で一緒に育った兄妹ですら理解し合う事は難しい。
でもだからこそ理解したいと努力するし、そこにコミュニケーションが生まれる。
イライラしたり、失望したり、泣き叫んだり、嬉しくて抱きついたりする。
人が人を求める。
そーいう道程を繊細に繊細にこの映画は描いている。

マイク・ミルズが話していたこの映画を作るためのひとつのルールが「引き返さない事」
インタビューを受けていた数多の子供たちが話していた事は「未来について」
終盤ジェシーもジョニーも何度も繰り返していた。
「カモン、カモン、カモン、カモン」
先へ先へ。
なんて強力な言葉なんだろう。
つまずきそうな時も、下を向いてしまいそうな時もこれからはこの言葉を心の中で呟こう。

先へ先へ。

2022-40
Hiroki

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