抱擁なんかに騙されまいと真一文字に口を噤み、わかり切ったことを誰かが言おうものなら、苦虫を噛み潰したような顔をしてやろう。そう構えていたわたしの目に、世界はどう映っていたのだろう。何年と経っても思い出してしまうのは、憎まれる理由ばかりで、約束や責任についての、それ以外にも及ぶわたしのしくじり。または、核心に触れ得た解答を平気で侵す、この社会への苛立ちを、あろう事か大切な人へと理不尽に向けた日々だったろう。もし、わかったふりをやめていたら、わからないふりをしていたら、そんな瞬間はいくらでもあって、たった一回切りだったかもしれない。わかってあげないは、わかってほしい。わかってほしいは、わかりたい。物心とはこんなにも悩ましく、しかしながら、わたしたちの生きる経験値と想像学の上に成り立つ街はどれも、その物心が築き上げてきたものに他ならない。わたしがここで回顧し、人間たらしめるような御託を並べ、延いてはそれを自覚しようともがく様は、憎めない理由のひとつになりはしないだろうか。時に街の風景は、わたしに少しだけそう思わせてくれる。わたしもあなたも同じ星の子だと、息巻く胸を分かち合ってくれる。
