ノストロモ

カモン カモンのノストロモのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
3.4
全編モノクロ。独身中年のホアキン・フェニックスが妹夫婦の事情で9歳男子をしばらく預かることになる。「菊次郎の夏」、「都会のアリス」、「グロリア」その他多くの作品でこすられてきた「孤独な中年と子供がひとときを過ごす」形式だが、どれとも違う味わい。
甥っ子のジェシーは超絶可愛い男の子だがただの天使ではなく、受け答えや態度にちゃんと9歳の少年っぽい憎たらしいところも多くあって、その辺りを過不足なくリアルに描いているのが良い。だからこそつかの間の触れ合いの中、たまに訪れる真に迫った瞬間の迫力や感情が観る者に伝わってくる。
全体に淡々とした印象で分かりやすい状況の説明もないが、観ている内にそれとなく妹夫婦の抱える事情や、母を巡っての兄妹の過去の対立などが浮かび上がってくる構成は好みだし見事。ただホアキン本人の事情や過去の恋人を巡る事情に関しては、あまりに情報がなさすぎるように感じた。もっともこれは自分の読解力不足かもしれないし、そもそもその辺りの事をさらっと流すようにあつかう事でいわゆる、分かりやすい感動や盛り上げから映画を遠ざけようというのが本作の流儀なので、ただ単にさじ加減に関する好みではある。マイク・ミルズ監督は、僕よりもう少し薄味が好きなのだろう。
主人公のジョニーはラジオ局のジャーナリストで、米国内の色んな都市に出掛けて現地の子供達に親や社会についてなど色々とインタビューするという企画を行っている。このインタビューの内容が劇中、映像や時には音声のみで印象深く挟み込まれるのだが、これはここだけガチなのだろうか?分からないし、特に物語の流れとも関連しないので最初はそんなものかと思って流していたが、終わってみればこの未成年達との生々しい「対話」こそが、そのまま本作のテーマだったことに気づく。
ジョニーはジェシーとのぎこちない触れ合いを通して、妹や母との関係、それまでの自分の在り方をも見詰め直す。本編の終了を経てなおエンドロールにもずっと続く子供達とのやり取りはゆるやかな余韻でありながら、映画全体の豊かな復習としても機能している。
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