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ミッドナイトスワンのKKのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.9
初めてバレーを美しいと思った...

今までもバレーを題材にした映画は見たことあったけど、バレー単体ではそれほど心を動かされることはなかった。

だけど、いちかのバレーシーンを見た時、本当に「美しい」と思った。指の先の先まで意識が宿りピンと伸びた指先には、自然と目を奪われる。

バレーのことを何も知らなくとも、彼女が人並外れた努力をしてきたことが分かる。普通の人では、なし得ない洗練された滑らかな動き。

もちろん、「作品」としてバレーの美しさがより際立つ演出にはなってると思うが、それでもなおその美しさには心惹かれた。

いちか役の服部樹咲さんは、バレーの大会でも賞取ったりと元々の表現力はあったと思うけど、それにしたってデビュー作とは思えない演技力だった。

1番印象に残っているのは、いちかが街中で声にならない叫びを上げるシーン。本当に心打たれた。

自分の親も、家庭環境も、お金も、今のこの状況も、いちか自身ではどうすることも出来なかった現実。何をどう頑張っても何一つ変えることは出来なかった。いちかに出来ることは、ただ感情を、自分を殺して耐えるだけだった。

そんな自分ではどうしようもない怒り、悔しさ、虚しさは誰かに向けることも出来ない。その思いは、いちかの中に溜まっていくばかり。それが感情のキャパシティを超えた時に、「腕を噛む」という自傷行為に現れる。

僕自身、毒親に育てられて自分の感情が抑えられなくなった時、噛み跡がつくまで腕を噛んでいたことがある。自分を傷つける以外に、感情を吐き出す場所がどこにもないんだ。

「なんでそんなことするの?」なんて聞かれたって、自分が1番分からない。何も分からない。何も分からないけどもう限界なんだ。

いちかの「叫び」を見ていたら、そんな過去の自分とも重なって気付いたら唇を噛み締めていた。

いちかには凪紗が必要だった。ただ自分を受け止めてくれる存在が必要だった。

今の世の中には、親ガチャで失敗した時の逃げ場が無さすぎる。確率の問題で、どうやったって親と合わない家族は存在する。

その中には助けを求めたくても求められない人もたくさんいる。せめて、助けを求めた人くらいは救える世界になってほしいなぁ...
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