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ミッドナイトスワンのneigeのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.6
2020/9/10 一足お先にみせます上映

助けてと誰にも言えず、一人過酷な運命を背負う孤独な二人。草彅剛のよるべなく、人生に対して不機嫌そうな凪沙と、服部樹咲の無表情で感情を忘れたかのような表情に、居場所がない彼らの現実に胸をつかれたところから始まる物語。苦悩を抱え続けた彼らが次第に擬似親子の中に「擬似」を超えたかけがえのない愛情を見つけ出す。二人でみつけた居場所のあたたかさ故の愛情の暴走にも似たクライマックスに涙を堪えることはできなかった。
苦悩と慈愛に満ちた本作、ちょっと凄いです。

【雑感】
一果(服部)はバレエに出会い、そこに自身のアイデンティティを見出していく。
服部は初演技だと言うことが功を奏しているのか、感情の動きを技巧で伝えてきれない不安定さが、そのまま少女の不安定で不確かな様子となり、だがしかしその内にある情熱を瞳の奥に宿している表現が秀逸。

凪沙(草彅)のショーパブの舞台でヒラリと手をかざし、バレエを踊り出した瞬間の誰もが息を呑むような本物の実力には脱帽。これをきっかけに凪沙が一果にのめり込むようになるのも理解できる。
それもこれも、素人目にもわかる、一果の本物のバレエの才能によるところも大きいかもしれない(ジュニアバレエコンクール等優勝)。監督が発掘したという服部樹咲はこの作品に不可欠であったと思う。

凪沙がいよいよ一果の夢と才能に賭け、自身のアイデンティティである「女性」を捨て、親として一果を守ろうと決意するくだりは、涙なしにはみる事ができない。腹を痛めた女だけが「母親」としての愛情を与えるのだとも限らないと強く思わせる。しかしまた、やはり「女性」になる事が「母親」であるという現実に打ちのめされる。

草彅の凪沙の心情に対する深い理解とその表現は、草彅の感受性の高さ(インプット)と長年求められて応えてきたこと(アウトプット)の集大成のようでもあり圧巻。多くの俳優がトランスジェンダーを演じてきていると思うが、一線を画す「生きた凪沙そのもの」を演じきっている。

一方で、早織(水川)の「腹を痛めて産み育てた母親」の強さもまた理屈を超えた愛情なのかもしれないと思わせる。(暴力は看過できないが)水川もまた、苛立ちと苦悩を隠すことのできない、開けっぴろげの生々しい人物を熱演。

最後に、新宿の猥雑な風景と深い森の中で響くような透明感のある渋谷慶一郎の音楽が、雑多な都会で必死に足を掻いている孤高の凪沙や一果というスワンを際立たせ、音楽も必聴である。

説明の少ないその余白は原作で確認できるかもです。

///////// 2020/9/25 ///////////

改めて、服部樹咲のバレエの美しさ、本物感がこのストーリーを納得させていると実感。

圧倒的才能、長い手足と煌めきを持ってもがいている一果を、守り、慈しみたいと願うその心は保護者そのもの。その心が、凪沙にとって叶わないかと思っていた「母親」に真っ直ぐと突き進ませるのは、必然だったように思う。

スイートピーの舞台で一果をみた時の凪沙の瞳の中に、ゴミ溜めみたいな自分の人生に本物の宝石(未来)が写し出されたあの瞬間。そこからの、凪沙の命がけの愛。

そして、一果に限りない希望を見つけた凪沙の想い、りんの想いを受け止め、壮絶な犠牲の上でも尚且つ美しく羽ばたくバレエを踊り続ける一果の覚悟。バレエとはかくも厳しいものかと。

ラストの一果(服部)の踊るバレエが本物だからこそ、あの先に凪沙が一果に見出した希望が見えている。

////////2020/9/27//////

もう感想は変わらないかと思っていたら、鑑賞を重ねるごとに色んな意味で感じ入ってしまった。エンタメでもあり、これから考えるきっかけでもあり、観る人がそれぞれに感じたらいいと思いますが、映画館で観て面白い作品だと思います。
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