紺藍

ミッドナイトスワンの紺藍のレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.0
予告動画を見た時点で、泣いてしまうのは想定内だったので序盤は、「ここ、泣かせ所だ」という作り手側の意図を勝手に解釈するという意地悪な視線を持ちながらも、その纏った空気感で涙が出てしまった。
でも途中からなんの涙か分からない位にマスクの下で自然に流れ続ける涙に自分でも驚いてしまい、涙ってコントロールできない感情のバロメーターなんだなと改めて気付かされた。

そうか、きっとこの映画は鏡なんだ。

直視できない自分の弱い部分、忘れ去りたい過去、そういう「どうして私だけ?」という一度でも思った事のある人なら分かる、自分の中の綺麗事ではないドロドロした物を吐き出させてしまうのかもしれない。
目を背けたいけど救われたくて、自分の答えをそこに見出そうという意識が無意識的に働いたからこその涙なのか?自分でも良く分からない。

ありのまま生きようとすればするほど、型に嵌めたい世の中との埋まらない溝が彼女らをいつも苦しませる。
そういう自分の中にもある「普通」が鋭利な刃物のように知らぬ間に誰かを傷つけていたかもしれないと気づかせてくれる。
最近で言う某知事が声高に繰り返す、嫌いな言葉…「夜の街」…彼女たちには彼女たちの生活がそこにあるのに、簡単に一括りにしていいものではないと改めて感じる。

そんな痛みとは対照的にピアノの旋律と一果のバレエシーン、どこまでも限りがなく美しい。そして一果のぶっきらぼうだったり無表情だったりする演技はむしろ自然。わざとらしくなくてそこが逆にリアリティを感じる。
その不器用さ故、後半のバレエのシーンがより際立って美しく感じた。

生まれた時から選べない生い立ちや境遇。最初から諦めなければいけない事が沢山あり過ぎる。
だからと言って、裕福だからイコール幸せになれるのか?というとそう単純ではない。
一果に贈られたギフトはバレエの才能だけではなく、凪沙との出会い。裕福な家の一人娘、りんは一果とは真逆の境遇で何もかもを手にしているように見えるが、ひとつの夢が絶たれた瞬間に絶望の縁に立たされてしまう。その儚さは切なすぎるほど分かるし、りんの詳細について多くを語らないのも私はとても好きだった。
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