ちー

ミッドナイトスワンのちーのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.6
9月10日先行上映を鑑賞した。
一果の存在感がすごい。初演技と思えない。親からの愛に飢え人生を諦めている気配、こどもらしい可愛さと不安な表情、バレエに出会ってからの変化が美しく伸びて咲く花のよう。監督がバレエを題材にしたいという思いを長年持っていただけあって、バレエシーンは美しく、強くてはかなげで素晴らしい。
その演技の受け手である草彅剛の演じる凪沙は、いわゆる美人コンテストに出てくる容姿ではない。しかし、ショーパブで働く凪沙は、確実に男性ではなく違和感がない。子供嫌い、面倒は嫌い、自分一人都会で必死に生きる彼女が一果の踊りに魅了され母親の顔に変化していく。不思議なもので、その日常シーンには懐かしい幸せがある。

この映画は、トランスジェンダーのあまり知られていない精神的・肉体的な辛さを視覚化して体験させる部分があるので、見ていて辛くなる事がいくつかある。批判を受けたり嫌悪されたりするかもしれない。当事者の方たちから見れば、伝えないでほしいという意見もでるかもしれない。それでも、こうして娯楽映画で扱われ、意見交換されれば意義深い。知らないで差別するより、知って感じて考えることは大切だ。

この作品ほど悲しくて胸が張り裂けそうな思いを感じたことはない。世界へと出ていく一果の羽ばたくような姿に、凪沙を感じて安堵したのに、「悲しい辛い苦しい美しい」が重くて泣きすぎて、席を立てなかった。

美しいテーマ曲とともにエンドロールが終わり、「一呼吸」置いてから客席が明るくなる。それまでスクリーンを見ていることをお勧めします。
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