あんずっくん

ミッドナイトスワンのあんずっくんのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.8
ラブストーリーと聞いて見に行って、横っ面張り倒されてごっそり吹き飛ばされた感じ。
まずこの映画に出ようと思ったのが、凄い。でも、草彅剛にしか出来なかったと思う。

本当に、情けない事だけれど、LGBTQの女性を初めて同性として心から幸せになって欲しいと思った。何もわかっていなかった。何も変わらない私と同じ、綺麗になりたいのも幸せになりたいのも、臆病なところも、必死なところも、笑ってないと崩れ落ちそうなところも。凪沙に幸せになって欲しかった。
一果が美しく踊れば踊るほど、凪沙を想い胸が詰まる。一果も、そんなに背負わせて、一果に受け止め切れるの?って、映画の最初から最後まで、辛くてギュッと手を握り締めてた。一果のバレエは美しい。ミュージカルの名作コーラスラインの中に、at the balletという大好きな曲がある。辛い境遇の中であっても、バレエ🩰は、全てが美しいと歌い上げるこの曲。つまりは、そういう事なのだろう。バレエは美しい。美し過ぎて、涙が止まらないのだ。

台詞は極端に少ない。
ほぼ目でしか演技していない。
変化していく凪沙のその目が頭に焼き付いていく映画といっても良い。
観終わって時間が経てば経つほど、草彅剛の演技力に、あれが演技であった事に驚愕して、また涙が出る。

この映画の凄いところは、その台詞量の少なさ、説明的な描写もとても少ない。全てを観客の想像力、共感力に委ねているようだ。そして、それが見事に功を奏して、観客は、説明されない衝撃的なシーンのソレから?を、無意識に凪沙や一果の気持ちになって追ってしまう。そして、もう客観的には見られなくなって呑みこまれてしまうのだけど、呑み込まれている事にさえ、エンドロールが流れるまで気づけない。凪沙は私であり、一果も、りんも、沙織も、健二の母も私。その苦しさの欠片を誰しもの胸の奥に見つける映画なのかもしれない。

いわゆる泣ける映画とは違う。