馮美梅

ミッドナイトスワンの馮美梅のレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.2
「あんたのため、あんたのせいで」自分の苛立ちを子供にぶつけないでほしい。子供を産んだのは自分が少なからず望んだことではないのか?

結果的に自分の理想の家族を築けなかったりして、ままならない現実にうんざりしてしまっているだろうけど、そういわれた子供の事を何故考えない?親以上に、子供はどうしたくてもどうすることも出来ないわけで…

この作品の主人公の1人でもある、一果もシングルマザーの母と2人暮らし。でも母は夜の仕事で酒浸りで一果のせいで自分は不幸だと思っている。一果はすでに人生を諦めている風でもある。

東京ではトランスジェンダーとして生きている凪沙はニューハーフのクラブでステージと接待をする日々。そんな凪沙は実母に頼まれ短期で親戚の一果を預かることに。

凪沙も一果もそしてバレエ教室で知り合った同級生、お金持ちの娘の凛、3人とも母親の呪縛に縛られ苦しめられている。女性になりたいのに母親が悲しむことがわかるゆえになかなか性転換手術を受ける事を踏み出せずにいるし、凜は母親の心ない言葉(なんでもお金で解決できる)で自分自身を過小評価しすぎているし、一果も凪沙や凛と出会う前は完全に自分の人生を諦めていた。

そんな一果がバレエや凪沙や凪沙のお店の人たち、そして凛のおかげで少しずつ人生捨てた物じゃないと思い始めながらも、それでもやはり人生はそんな順風に行くわけではない。

凛と一果の2人の友情…凜の最後のダンスはあまりにも切なすぎた。
一果のバレエの才能伸ばしたい凪沙が自分の女性としてのプライドを捨てて男性として働こうとする姿、そして発表会で一果が母親を選んだことのショックが切ない。

そしてそれが結局、凪沙が性転換手術をするきっかけになってしまった。
女性となって実家そして一果を迎えに来た凪沙に無理解な人たちの仕打ちに身も心も気づ付けられながらも一果に踊ることを辞めるなと言いながら帰っていく凪沙が切なすぎた。

自分を大切にしてくれた人たち、そして何より踊りたい気持ちを持ち続け、奨学金を貰うことができた一果は旅立つ前に再び凪沙に会いに行くのだけど…

あまりに凪沙が切なすぎる。
どうしてあんなふうになってしまったのか…
一番知られたくない一果に知られてしまった自分の姿、残酷すぎる。
思いでのハニージンジャーソテーを今回はヘタながらも一果が凪沙に作ってあげる。

最初は戸惑いながら生活を始めた2人が少しずつ成長していく姿、そして凪沙が迎えに来た後から中学卒業までバレエを続けていた一果はあの時、きっと今までとは違い母親に自分の意思をきっぱり伝えたんだろう。

そして凛や凪沙や片平先生の思いをすべて背負いながらバレエを続けたんだと思う。愛する人たちとの別れを通じで一果が成長していく姿が切なく、でも愛おしい。

凪沙の人生、彼女は自分の事どう思っていただろう、少しでも幸せな人生だったと思えたかな?

一果の母親が水川あさみさんだと最初わかりませんでした。後半登場した時わかってビックリしました。一果を演じた服部樹咲さん、デビュー作ということのようですが佇まいが素晴らしく、これから期待される女優さんですし、友人の凛を演じた上野鈴華さんも凄く良かったです。

草彅さん演じる凪沙のふとした時の表情に何度も感情をグッとさせられました。一果の今後の事で片平先生との会話で「お母さん」と言われ、びっくりしたと同時に、はにかむように、でもすごく嬉しそうな表情や、男性となり働きに行こうとする朝、一果を抱きしめ頭をなでる時の表情、いろんな凪沙の表情が頭から離れません…

沢山の人に観て何か感じてもらいたいと思う作品です。
馮美梅

馮美梅