フジタジュンコ

ミッドナイトスワンのフジタジュンコのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

いい映画でした。文句なくいい作品です!! 見に行くときはハンカチを忘れずに! あと、エンドロールも最後まで見てください…途中で席を立ってはいけない……絶対に!!絶対にだぞ!!!!!

役者さんがみんなすごい。みなさんおっしゃるとおり草彅さんがとくにすごい。水川あさみさんもすごい(ただし広島弁は下手くそすぎるw)。サトエリは相変わらずかわいい。もちろんヒロインの服部樹咲さん(あのニキビはメイクなんだろうか?)もすごい! すごい!け!ど!

うーん
うーん
うーん……

バレエや、音楽といった、芸術の「美しさ」って、映像化したときにいっきに崩れる危険性をはらんでいると思うんですよ。見る側の嗜好性に強く左右されるからです。
ステージで子供が踊ってるシーンを、美しく、ドラマチックに描き、登場人物がその踊りにいかに惹かれたか、「演出」したところで、見ている者がそれを「美しい」と思わないと、説得力がないんですね。服部さんもそもそもがバレリーナのようで、確かに美しいんだけど、ショーパブにいる泥酔したクソ客が目を奪われるほどではないでしょう(ここは確実に曽田正人の『昴』のオマージュだと思う。ゲイバーで白鳥の湖ってまんま『昴』の冒頭よね…ちなみに山岸凉子の『テレプシコーラ』も参考にしていると思われる…)。

たとえば数多く映画でファム・ファタールとして描かれる女性がいますが、女優さんはもちろん美人ですが、「そこまで美しくないんじゃない?」と思う人もいるはずで(美醜には好みがあるから)、だからふるまいやエピソードで、そういう存在だと受け止めていくんだと思うんですよ。今回の凪沙さんこと草彅さんみたく「見てるうちにだんだんと女性に見えてくる」みたいな。バレエとか、音楽とか、芸術って、残念ながら、それができないんですよね。

バレエが重要なテーマになっているがゆえに、この、「バレエシーンを美しいと思わなければならない」というしんどさがありました。バレエが全部漫画的表現なのも少し、フィクションだからこそいい、なのか、没入できなくて萎える、なのか……私は後者の方でした。
圧倒的なバレエの迫力のあるフィクション作品を読んで/見てしまってるから、この程度だと没入できないんですよね。
最初「癖があるね?」とか言われてたわりにいきなり贔屓されるくらい上達しちゃうのも、過去に毎日12時間レッスンでワガノワメソッドを仕込まれた…とかならまあ納得できる(そして若い真飛先生は知らないとか)けど、なんにも触れられないし、そもそもなんでバレエに傾倒したのかもわからないし、親友のりんちゃんの自殺もショッキングだけど必要なシーンとも思えなかったし(りんちゃんと一果のキスシーンも雑だよね…)、先生もレッスン中「首伸ばして!」「足!」とかくらいしか言わないし、こういう指導で海外のバレエ学校にスカラシップもらうのってミラクルすぎるな、とか、ほんとそういうことが気になって、バレエパートはあまり引き込まれなかったのが、「うーん」の主原因です。

身も蓋もないこというと、バレエいらんかったんちゃうかな…虐待されてた姪っ子を、トランスジェンダーが引き取ることになり、奇妙な同居生活が…ってだけで十分だったんじゃないかな……

ラストにかけてバレエ以外に関しても「うーん」が深まっていくんですよ。なんでいきなりタイに行っちゃったんや。実家にいきなり帰ったらそりゃ反対されるやろ。そんでなんでケアを怠ったんや。クソ汚い部屋が次のシーンではきれいに片付けられてて一果有能すぎるだろ。凪沙の精神のバランスが、一果と離れた時点ですでに崩れていた…ということかもしれないけど…オムツ替えのボランティアも、あんな状態なら病院に連れていきますよね。本人が拒んだとしても。
映画はエンタメなので、なんで?とかどうして?とか、こまけぇこたぁいいんだよ!!ということなんだと思いますが…(まあそもそも中学生の女の子を独身の男の家には預けないよね)

色々「うーん」を書いてしまいましたが、これらも、エンドロール後のカットで全部報われるんですよね。凪沙さんがタバコをくゆらせながら、ちょっとはにかんでる、あれ最高でした。

ちなみに、YoutubeでLGBTの当事者のかたがお話していたこれが面白かったです。
https://www.youtube.com/watch?v=jp8O4u3Vhz8