大道幸之丞

天才ヴァイオリニストと消えた旋律の大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

まず「ラーゲリより愛を込めて」を今後視聴予定リストに入れている方は見ない方が良いかもしれない。核心部分が全く同じだ。

原題は“The Song of Names”つまり「名前の歌」これはズバリこの作品の核心部分である。ただし凡庸なのでタイトルを変えたのだろう。そこはやや疑問だ。

デビューコンサート当日に消えたポーランド家族から預けられた天才ヴァイオリニストでユダヤ人のドヴィドルを30年間に渡り追うマーティン。彼が姿を消す心当たりは何もない。

面白いのは彼を探すのと同時に彼のバイオリン、マーティンの父がロンドンのベイリーズ(著名な楽器店)でドヴィドルに買い与えた1735年のニコラ・ガリアーノ(極少品)を追い、最後の最後にNYでドヴィドルを探しだした。

そこで彼に失われた「デビューコンサート」を父に捧げる意味でもう一度開催することを呑ませる。しかし条件として、曲目は秘密で全てを任せることを約束させられた。

「失踪した理由」としてドヴィドルから聞いた話は、リハから本番までの4時間に外出した際に偶然亡命したポーランド人に会う。その男に家族の消息を尋ねるとある教会に連れて行かれた。ポーランドのトレブリンカ収容所に入れられたユダヤ人は亡くなった仲間の名前を歌にして記憶し、開放された後にその歌を伝承した事を聞く。

ドヴィドルから懇願されたラビは歌を歌うが、そこには家族全員の名が歌い上げられた。つまり家族が全員殺された事を知る。その瞬間から彼は生き方を変えた。「名前の歌」を演奏し続けて生きる事に決めたのだった。

———ユダヤ人による口伝の「名前の歌」という知恵の要素は感動させる部分なのだが、それがこの天才ヴァイオリニストのエピソードをなぞる事と組み合わされる事で、別段ドラマに感動が増すわけではない。これは構成が巧くないのだ。脚本の出来といえばそれまでだが、少々残念な仕上がりと感じてしまった。