ボギーパパ

由宇子の天秤のボギーパパのレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.4
劇場2021-65 ES
『空白』からのハシゴ鑑賞。社会派2連発は流石に疲れた。

まず満席に驚き。休日昼回とは言え、本作が如何なるポテンシャルを持っているのか。私は
①主演の瀧内公美が好きだから
②予告編が極めて印象的であったから
③春組の取り組みが素晴らしいと思ったから
これらの理由で鑑賞。

まず何と言っても瀧内公美さん〜
『火口の二人』は衝撃的だった。まさに体当たり演技、そして一言一言のセリフの自然さがとても魅力的な俳優。『グレイトフル・デッド』はサイコパスをある種コミカルに演じている。そして『大豆田十和子と3人の元夫』での存在感といい今まさに旬の方。

本作でもこのセリフの自然さが際立っている。練りに練られたのだろうセリフが、彼女を通すことによって自然さを増す。心の声というか、人間らしさというか、、、とにかく役作りが凄い。

さてストーリーはというと、二つの軸があり由宇子の二つの顔(立場)を交差させつつ進展する。ドキュメンタリー監督の立場と、塾講師であり塾長の娘という立場。この二つの立場を「天秤」になぞっているのだろう。もちろん立場の上に引き起こされる出来事も天秤皿を激しく上下させる。この振幅の大きさに、観客は「自分ごと」と重ねて観ていかねばならない。自分だったら、、、どうするだろうと。

劇中の「問題が大きすぎるんだよっ」の一言に代表されるように、人は絶対的に正しいことと、その瞬間その状況において最善と思い込みたい「正解」との間を揺れるものだろう。本作の随所に織り込まれる「判断」の場面のスクリーン越しに、上下に振幅する天秤が見える。もうこう感じただけでこの作品を観た意味があったと確信。

そして由宇子が向き合う対象に咄嗟にスマホカメラを向けるシーン。向けられた相手の心の天秤も揺れる。そして由宇子はその片方の皿に錘を少しずつ乗せてていき、均衡が取れたところで心情を吐露する、そんなふうにも感じた。

兎にも角にも観ているこちらの天秤も揺れに揺れ、150分オーバーの長尺を、しかも劇伴無しでも全く退屈させず引き込んだ春本監督の手腕に脱帽。凄い作品でした。春組頑張れ!応援するぞ。

セリフが本当に自然なので、劇場以外で観ると聞き取れなかったりするだろうから劇場鑑賞を強くお勧めいたします。
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