ナミモト

由宇子の天秤のナミモトのレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.0
何が正しくて、何が嘘なのか。正しさの中にも、嘘の中にも、本当や真実がないのなら、何を基準として、どの側に立つことで、どうやって自分を保てばいいのか?
それは逆に言えば、何かの基準に自分を合わせ、何かの立場に寄っていれば、自分を安全に保つことができていると錯覚する現代人の弱さを照射しているのかもしれません。
主人公 由宇子が、最初はドキュメンタリー監督として追っていた事件とその家族が抱えていた事象は、由宇子の家族に起きた別の問題を通して、由宇子自身の事象と重なっていく。この展開から、由宇子は善悪の価値判断や対応を決する天秤が揺れていく。
ドキュメンタリー監督として追っていた家族に近づきすぎた、という点では客観性を欠いたという点でドキュメンタリー監督としてはよくないようにも感じましたが、由宇子が社会的な弱者にある人たちに対して、彼らを母親のように支えたいという心根の優しさや信念を持った人物であること。監督という他者を映す行為を行う立場に立つことの暴力性や、カメラに記録し告白を強いる強行性を自覚しながら、それでも対象に迫るのは、そうした信念に基づいている点が少なからずあること。
由宇子が、監督としてドキュメンタリー作品を作る事、作品に関わった人たちの生活を守る事、塾を経営する父親や塾に通う子供たちを守る事、由宇子の持つ自分のまわりの人たちを守りたいという気持ちは真摯であるはずなのに、なぜうまく物事は進まないのだろうと。ある程度の社会的責任を負う立場になった人の葛藤は、自分以外の誰かをこの社会の中で守りたいと願った時に、その願いの尊さに釣り合わないほど、重圧を仕向けてくる外的状況であるこの社会に起因するのであれば、この社会の歪さと、その歪さの中で価値基準が翻弄される人たちの心を本作は捉えていると感じました。
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