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由宇子の天秤のtenjin6のネタバレレビュー・内容・結末

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

おそらく令和の現代であろう作品の時代考証的リアリティはよくできていたと思うけど、中身はどこか前時代的というか古臭い印象が否めなかった。それは組織内での葛藤みたいなテーマを筆頭に、既視感のありすぎるお決まりの構図が連発されるからで、確かに今を切り取ってはいるものの真新しさは感じられなかった。
よく引き合いに出される映画『空白』との比較で言うと、まず登場人物への嫌悪感がこちらにも存在する。主人公の由宇子はいろんなことに首を突っ込んだ挙句、(結果論もあるとはいえ)対処が場当たり的で自分勝手。由宇子の父親は言わずもがなだし、めいはめいでモヤモヤの残る終わり方。最終的には、序盤はかなり印象の悪かっためいの父親が一番まともに見えるという驚きの反転があった。
物語のキーとなる女子生徒が車にはねられる点や、最後まで誰が嘘をついているのかわかりづらい点も『空白』とよく似ている。ただ前者に関しては、『空白』においては「どちらが悪いか」を五分五分に近いところに持っていくために必要不可欠な前提条件であったのに対し、この映画での蓋然性はあまり高いようには思えず、むしろめいが事故に遭わなかった世界線において由宇子が最終的にどういう行動を取ったのかの方が重要なのではとすら感じる。
とはいえ、ここまでつらつらと書き殴ってきた気になる点をふまえても、この映画は十二分に観る価値がある、それだけのパワーを秘めているのは間違いないと思う。個人的には、ふつうならカットして省略されそうないくつかのシーンのその後が、じんわり余韻として映し出されていた点が一番良かった。
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