空海花

由宇子の天秤の空海花のレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.5
400レビュー目はこちら!
本年度ベストクラスの邦画がきた!
(スコアは暫定ですみません🙇‍♀)

自身の中の天秤が激しく揺れ動く時
情報化社会の歪みが炙り出される。
ベルリン国際映画祭パノラマ部門選出。
釜山国際映画祭ニューカレンツアワード受賞
東京フィルメックス学生審査員賞受賞
アジアフィルムアワード最優秀新人監督賞ノミネート…etc.
監督・脚本春本雄二郎

主人公は3年前の女子高生いじめ自殺事件の真相を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子。
保守的な製作サイドと衝突することを厭わず、いま世に問うべき問題に光をあてることに信念を持っている。
仕事に対しては常に毅然としていて前のめり。その時の自分にとっての最善を最速で選び取る感じも。それでいて相手の心情に沿った真摯な態度で、頑なな心の壁を解きほぐすような一面も持つ。
まずはこの人物像が良い。
劇伴も回想もない映画の中で、瀧内公美が素晴らしい表情でそれを演じる。
ラス・パルマス国際映画祭最優秀女優賞&CIMA審査員賞をW受賞。
仕事以外では父が経営する学習塾を手伝い、二人暮らしの父とは仲睦まじく暮らしている。ここでは緊張感は和らいで、それで均衡を保っているようにも思える。それはもしかしたら彼女の危うさなのかもしれない

“正しさ”とは何なのか─
社会を、多様性を認めフラットに真実を明らかにすることが正しいと信じて行動しても
何かのきっかけで信念は激しく揺らいでしまう。
父役は光石研。役柄とも相俟って、ただ魔が差したとしか思えない。
衝撃的なのはこのせめぎ合いの天秤が
観客にも突きつけられてしまう臨場感。
この感じは監督が影響を受けているというダルデンヌ兄弟作品のそれのよう。
鑑賞後の余韻も、逃げ場のない衝撃の後にくる不思議な高揚感(すごい作品を観た!)が似ているなと感じた。

由宇子の製作サイドとの葛藤も生々しく感じ、
マスメディアの在り方と
それを見る側の問題。
由宇子が面倒を見ることになる女子高生役河合優実との関係。
彼女と雑炊を食べるシーンの温かさ。
塾生に買っていくおからドーナツ🍩
上司のカレーに吐いた唾。
食べ物から感じるドラマ性。

展開は映画的で、想像できないことが次々に起こる。
彼女に待ち受ける出来事を追うだけでも興味深いし、受け入れるのに必死になる。

自分自身の闇に対峙した時
その瞬間自身はレンズの前で被写体となる。
その時に由宇子はきっと答えを出す。
溢れる感情に溺れそうになりながらも
観ている側もまた…


上映延長や復活も見かけるので
ぜひ多くの人に観てもらいたいと思う。
チャンスがあれば春本監督の『かぞくへ』もぜひ…
本作と合わせて観ると、俳優梅田誠弘にやられます…😇
あとパンフは買うことをおすすめします。


春本雄二郎監督&キャストの梅田誠弘さん(女子高生 萌(めい)の父親役)の
舞台挨拶&サイン会の回に鑑賞。
メモ魔と化しました(笑)

かいつまみますが、ネタバレかもしれないので以下注意⚠️


2014年のいじめ自殺事件で、加害少年の父親と同姓同名の無関係の人が、
一般人に実名や住所を晒されるなどネットリンチを受けたという記事がきっかけ。

ナレーション、テロップ、インサート、回想など説明は一切入れない。
リアルな時間軸。そのための説得力をどうするか

リハーサルはラストシーン以外全てのシーンで行う。
ワンカットが長いのは、長いほど役者が役者として動くから。
ラストシーンの緊張感たるや!

Q&Aコーナー質問してくださった方にも感謝🙏
ツイートしたら監督にリプライいただき感激🥲

それぞれの真実─
実はこの前に観た『最後の決闘裁判』を少し思いだした。
(全然違うのだけれど)
描き分けに関しては自分的にはこちらの方が断然面白かった。

【追記】
長いのとネタバレ気味かなと割愛したけれど、コメントのやりとりもあって、
ネタバレエリア内?だしやはり追記。
本作での唯一の不満?
萌との対話の表現をもっと見たかった(かなり時間は割いているのだが)
由宇子はフラットさを徹底するために子供に対しても容赦ない。
一人の人間として扱う真摯さは良心でもあるが
大人として女性としてもう一歩あるのでは
という思いが湧いてくる。
それが実は由宇子の危うさ。
作品内に含まれているので、作品としてどうこうではなく
ただ個人的に監督ならその場合どんな描き方をするのか観たいという欲求。


2021レビュー#177
2021鑑賞No.398/劇場鑑賞#77


実はまだ書きたいことがいっぱい😱
そしてレビューたまってるだけで2週間くらい映画館に行けてないです😫
空海花

空海花