セサミオイル

由宇子の天秤のセサミオイルのネタバレレビュー・内容・結末

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

ネタバレ全開。観た人用です。


この映画ではTV局や学校のような体制や、波のように押し寄せるネットリンチや女性軽視といった社会悪に対して個人は余りにも無力だという事が描かれていた。
この波に呑み込まれたらひとたまりもありません、人生も信念も奪われて1人の人間があっという間に無力化されてしまいます。

戦っても戦いきれないそんな波に呑み込まれもがく当事者たちを由宇子はジャーナリストとして追いかけますが、間もなくして突然由宇子はその当事者候補になってしまいます。

由宇子は当事者達を追いかけてきた経験から波に対する無力さを知っていたので必死に波から逃げようとしますが、運から見放されとうとうリーチがかかってしまいます。

由宇子は社会から抹殺されてしまう前にひとつ抵抗しました。秘密を持ったのです。
由宇子が追いかけてきた当事者矢野志帆が、彼女を襲う波からのダメージを秘密を持って最小限に食い止めたように、小畑萌が自身の身を守るために沢山の秘密を抱えてたように、由宇子も巨大な波に対抗する為には秘密しかないと最後の最後で悟ったのではないでしょうか。
最初は由宇子の父の事と萌の事を波から守る為に秘密にしました。ひいては由宇子自身を守る為に。
そしてそれが破綻しかけた時、萌がウリをやっていて由宇子の父親以外の複数の男性と性交渉していてお腹の子の父親が由宇子の父親ではない可能性が出てきました。
波に呑まれそうになる直前に逃げ道が見つかったのです。由宇子の父親と萌との間に性交渉があった事は当事者以外誰も知りません。萌も意識不明です。これを自分達が黙っていればこのまま塾の生徒達何人かと萌が性交渉をしていたという噂と共に事件は不問・風化するはずです。
しかし由宇子はそうしなかった。
ここが最後の天秤です。
事件は風化するかも知れませんが男子生徒達に好奇の目が向き最悪の場合、犯人探しになるかも知れません。そうすると今度は生徒達があの波に攫われる。萌はウリをやった子として世間から認識され、萌の父親は社会的弱者と決めつけられダメ人間の烙印を押される。
由宇子はそれを食い止めようと新たな秘密を持ってして彼らを守ったのです。
由宇子自身と父親の犠牲とを引き換えに彼らを守るという選択を取りました。
生徒達の人生と自分達の人生を天秤にかけたらどっちが重かったのでしょうか。
いずれにしろ上に上がった方を取るか下に下がった方を取るかは由宇子次第です。
それが由宇子の天秤です。

個人では波に対して無力だと思ってた由宇子は、秘密を持てば全くの無力ではないと後から気付いて少なくとも男子生徒たちと萌親子を守る事が出来たという事だ。

土壇場で捻り出した知恵と勇気。
人間の強さ、しぶとさ、果ては未来へのかすかな希望が描かれていた。