カポERROR

由宇子の天秤のカポERRORのネタバレレビュー・内容・結末

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

文句なしの衝撃作。
いやぁ、食らった、食らった。
監督も脚本も春本雄二郎?
噂では助監督なしで14日間で撮り終えたとか。
どんだけ才能があるのか?
嫉妬で狂いそうだ。
そして、主演の瀧内公美。
映画では初見だったが、こちらもたまげた。
と言うか、これ観た人間、全員即彼女の下僕になるのでは?(少なくとも私は今後AmazonのCMは土下座で突っ伏して視聴する。)
間違いなく、出会えて良かった傑作。
ただ、私の主観でどうしても引っかかった点が2つあるので、個人的な感想として書き残させて欲しい。

✤✤✤

①ポスターのコピー「正しさとは
 何なのか?」について

由宇子が天秤にかけているのは、少なくとも”正しさ”ではないと思う。
最後の台詞が「私の父です…萌(めい)ちゃん妊娠させたの。私が隠そうとしました。」なのだ。
これ自体正しいかどうか不明ではないか。
正確には「私の父が萌ちゃんをレイプしました。私が隠そうとしました。」だ。
私自身は、彼女が意識的に天秤にかけているのは、”どちらが自分にとって望ましいか?”の選択と、”どちらを真実として信じるか?”の選択、この2つだと感じた。
前者は、父の愚行の落とし所、萌の妊娠の処置、自殺事件の真実の扱い…等。
後者は、父の発言、萌の噂、登志子や志帆と学校側の言い分…等。
ポスターの言う”正しさ”が、正確さやモラル(善悪)を指すのだとすれば、そしてそれが由宇子の天秤の拠り所になっていたのならば、この物語はこれほど混沌に包まれていないと思う。
正しさとは関係なく、由宇子は望ましいと思う選択、信じたいと思う選択に翻弄され、結局”何が真実なのか?”、”誰を信じれば良いのか?”が分からず、選択しては裏切られるという負のループに陥る。
本作の魅力は、この展開にこそあるのではないか。
故に、ポスターの「正しさとは何なのか?」は、純粋に違和感を覚えた。

②結末の着地について

まず、私は根っからのエンターテイメント好きであり、伏線回収フリークである。
且つ、この作品の恐ろしい魅力は”何が真実なのか?”、”誰を信じれば良いのか?”が分からず、由宇子が裏切られ続ける…言わば感情移入した鑑賞者が”泥沼で何も縋る物がなく溺れる”ような感覚に陥るところに他ならない。
自分が信じた父に裏切られ、志帆に裏切られ、(この点は不確かだが)萌に裏切られた由宇子。
だが、最後の最後、ラストでの萌の父 哲也の反応は全くの想定通りで拍子抜けだったし、息を吹き返した由宇子の所作もサプライズはなかった。
…実に勿体ない!と思ってしまったのは私だけだろうか?
ラスト18分50秒、萌の父 哲也の「先生、萌、妊娠してたんです」という台詞を含め、以降のシーンを撮り直して貰えないだろうか?
何ならアナザーエンディングという形でも良いので…。
私は、ただただ以下のようなラストが観たかった。

〖2h13m19sより〗
・由宇子と政志が病院に駆けつけると、病室から出てきた医師と看護師が会話している。
「…一命は取り留めましたが、お腹の赤ちゃんも予断を許さない状況です…」
緊張にひきつらせた顔を見合わせる由宇子と政志。

・病室の中を見ると、萌の父 哲也が危篤の萌を見守っている。
由宇子が声をかけると、哲也が惚けたように呟く。
「先生、知ってました?萌、妊娠してました。俺は知らなかった…。大事な赤ちゃん、お腹にいました。」
政志が絶句する。
由宇子は政志に鋭く目配せして帰宅を促す。
※病院に駆けつけた直後の廊下のシーンと、哲也が泣きながら「多分娘、身体売ってたんです。でも聞けなくて…。」と述懐する待合室のシーンは全てカット。

・その後、哲也は医師に呼ばれ病室を出ていく。
※そこからの病室のシーンは本編そのまま

・ラスト、駐車場にて。
哲也の車の前で出発を遮ろうとする由宇子。
車を降りてきた哲也に告白する。
由宇子「私の父です…萌(めい)ちゃん妊娠させたの。私が隠そうとしました。」
その後、詰め寄った哲也が由宇子の頸動脈を絞めながらこう唸る。
哲也「…ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな…萌のお腹の子は…お前ん家のクソ親の子なんかじゃねえ。
誰にも手出しさせねえからな。
…俺の子だ…萌も、お腹の子も、俺の子だ!」
恐れおののく表情のまま頽れる由宇子。
立ち去る哲也。
その口元にはうっすら笑みが浮かんでいる。
やがて、息を吹き返す由宇子。
自分に携帯のカメラを向ける。
(長回しはそこまで。)
ラストカット。
表情を無くした由宇子の顔のアップを映し出す携帯のモニタ映像でFin。

…心を決めて、父の愚行を告白するという選択をした由宇子だったが、最後、哲也にさえも裏切られるのだ。
哲也が萌を身ごもらせた。
思い起こせば、最初に会ったその時、哲也は萌にあからさまに暴力を奮っていたではないか。
伏線は回収された。

✤✤✤

色々と身勝手な世迷言を書き綴ったが、単なる私の陳腐な妄想だ。
何にせよ、本作の衝撃は保証する。
未見の方はインパクトを覚悟の上、是非とも御視聴頂きたい。
『由宇子の天秤』はU-NEXT、Netflixにて配信中。
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