うえびん

ぶあいそうな手紙のうえびんのレビュー・感想・評価

ぶあいそうな手紙(2019年製作の映画)
4.5
老いの超え方

2020年 ブラジル作品
原題:Aos Olhos de Ernesto(エルネストの目で)

舞台はブラジル南部ポルトアレグレの街。主人公エルネストは78歳の独居老人で、隣国ウルグアイからやって来て46年が経つ。年をとってほとんど目が見えない。ある日、届いた一通の手紙、偶然知り合ったブラジル娘のビア。エルネストとビア、二人でその“手紙”を読んだり書いたりする過程で、孤独だったエルネストの人生が徐々に変わってゆく…。

主人公エルネストを演じるホルヘ・ボラーニの声と音楽がずっと耳に心地よい。静かな作風だけれど、遠赤外線のストーブのようなじんわりとした温かさが感じられる。一見、孤独なエルネストの人生は、寂しく、切なく見えるのだけれど、ビアとの関わりを通じて少しずつ彼の内に秘めた思いが滲み出してくる過程が面白く味わい深い。

「手紙の言葉には味がある。」
「封筒を開けるとき、待った時間と期待に心が躍る」

僕もほとんど手紙を書かなくなったけど、エルネストのこの言葉には納得。自然に頷きながら聞いていた。ビアが手紙を読む場面で、手紙の送り主であるルシアの声が重なって輪唱のようになる表現は上手いなぁと感じた。

また、エルネストとビアの話す言葉の違いが物語に厚みをもたせていて面白い。ビアが話すポルトガル語はブラジルの公用語。イベリア半島のポルトガル語とは若干異なっていてアメリカ英語とイギリス英語の違い以上に文法や発音などに大きな違いがあるそう。エルネストと隣人ハビエルが二人の会話で使うのはスペイン語で、ウルグアイとアルゼンチンの公用語。ポルトガル語とスペイン語は似ていて単語も共通するものがあるようだが、発音が大きく異なっているので、文字で意味が想像できても基礎的な語学力がないと読み書きや会話は難しいそう。

「老いるとは失うこと」でもあるけれど、長く生きたからこその人生の味わいがあるんじゃないか。エルネストは、目が見えにくくなったからこそ見えるようになったものがあったんじゃないか。“老い”のイメージがネガティブからポジティブに変わってゆく。

「同じ記憶をもった人、同じ希望に生き同じ喪失感を抱く人」と共に老いながら歩む余生。エルネストが示された“老いの超え方”。僕が高齢期を迎えたときのお手本とさせていただきたいと思う。
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