シズヲ

エルヴィスのシズヲのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
4.0
飛ぶことを夢見て、やがてスターとして飛び上がり、そして死ぬまで飛び続けることになった青年“エルヴィス・プレスリー”の人生。エルヴィスをスターへと押し上げて搾取するトム・パーカー大佐も語り部として、そしてある意味で“真の主人公”として舞台に立ち続ける。寄生とも共生とも取れる二人の関係性は全編に渡って描かれ、良くも悪くもエルヴィスの(あるいはパーカー大佐も)運命を左右し続けていく。

バズ・ラーマン監督によるギラついた演出は過剰でゴチャついた印象も否めないとはいえ、エルヴィスが歩んでいく波乱万丈の人生を目まぐるしく描き切っている。長尺とはいえ全編通してテンポ良く進んでいくし、次々に挟まれるライブシーンの熱気と絡み合うことで怒涛の勢いを保ち続けている。終盤に差し掛かると流石にある程度トーンが落ち着くとはいえ、その内容も相俟って峠を越えたような寂寞感がある。パーカー大佐がエルヴィスを契約で縛る場面で『サスピシャス・マインド』の「俺達は罠に嵌っている……」というフレーズが重ねられたりなど、歌唱に合わせてエルヴィスの現状が端的に示される演出も印象的。あと60年代半ばになると明らかにヒッピー風のプロデューサーが出てきたり、時代背景の変化ぶりも面白い。まぁ空気感の割にモダンな挿入歌が度々流れるのは好みが分かれそうだけど、冒頭の時点で派手なCGやカット割りなどの大仰な演出を見せられたので何やかんや飲み込めた節はある。

オースティン・バトラー扮するエルヴィスの雰囲気はとても良くて、彼の秀逸な演技と情熱的なパフォーマンスが間違いなく映画に命を吹き込んでいる。バトラーがハマり役だからこそライブシーンの熱狂的な臨場感も強烈に活きている。「指一本動かしたら逮捕だ」からの小指ちょんちょん→『トラブル』の流れ、歌詞の反骨精神も相俟って痺れる。そしてトム・ハンクス演じるパーカー大佐も絶妙に胡散臭い存在感に溢れていて秀逸。間違いなくエルヴィスに貢献している部分も大きいが、それ以上に漂う“何とも言えぬ怪しさ”が風体や振る舞いによって適切に表現されている。彼の存在はエルヴィスを取り巻くショービジネスの象徴であり、同時にスターへと押し上げられた彼を翻弄する社会の象徴めいている。

エルヴィスに対して見受けられる“黒人音楽の簒奪者”としての批判を意識してか、“エルヴィスの音楽性のルーツはブラック・ミュージックである”という部分に大きく焦点を当てていたのが印象的。少年時代のエルヴィスが黒人の奏でるブルースやゴスペルとの邂逅を果たす場面はまさしく電撃的。その後もBBキングとの交流が描かれ、また要所要所でもブラック・ミュージックがエルヴィスの根幹として描写されているので、だいぶ意識的に掘り下げられている。リトル・リチャードとかも出てきてニヤリとしてしまった。エンディングもヒップホップやR&Bに絡めたリミックスだったのが面白い。

そして終盤の何とも言えぬ哀愁は、中盤までの鮮烈な熱気に対する反動であるかのように痛ましい。娘や奥さんと一時の再会をする場面、仄暗い空模様やジェット機に乗り込む際の後ろ姿などが“彼の最期”を暗示する。そしてエルヴィスが言及する「死ぬまで飛び続けるしかない鳥」の話。幼少期から“飛ぶこと”を望んでいた青年は全米屈指のスターとなり、最早“飛び続けなければならない鳥”となってしまった。そして最後のライブ映像やインタビューなどを経て、眩いライトが消えゆく演出によって“エルヴィス・プレスリーの終焉”が否応なしに突き付けられる。幾度となく描かれた熱狂的なライブシーンも相俟って、見終わった後の“走り抜けたような余韻”が実に強烈。まさしくライブ後の虚脱感に近い感覚。

そんで終盤の顛末を見ていると、序盤におけるプレスリーママの「あの娘達が息子を殺そうとしている」という懸念は的を射ていたのだなぁと思ってしまう。
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