おなべ

エルヴィスのおなべのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.8
◉ただただ、迸るダイナミズム。

◉『華麗なるギャツビー』『ムーラン・ルージュ』の《バズ・ラーマン》監督作品。「キング・オブ・ロックンロール」「史上最も売れたソロアーティスト」「ロックの創始者」etc…彼を指す呼称は数知れず。一時代を築いた伝説のロックシンガー《エルヴィス・プレスリー》の禍福に満ちた壮絶な人生を描いた伝記作品。

◉正直《エルヴィス》に関しては、本作を観るまで、「もみあげが濃い」というイメージしかなかった…。

◉《エルヴィス》の「Heartbreak Hotel」は、〈ビートルズ〉〈クイーン〉〈ボブ・ディラン〉などがミュージシャンを目指すきっかけとなった曲で、他にも名だたる有名ミュージシャンに影響を与えたとか。

◉《オースティン・バトラー》の甘いマスクから漏れ出すセクシーな色気と反骨精神。本物とは似て非なるものの、体の底から溢れ出るエネルギーを全身で表現しており、表情や動体演技も含めて、花丸の好演だった。

◉それまで主流だったカントリーミュージックとの比較が秀逸。当初の観客は席に座って上品に音楽を嗜んでいる感じ。しかし、《エルヴィス》のパフォーマンスに初めて触れた瞬間に、女性たちは発狂しながら我慢できずにステージに乗り出してしまう。《エルヴィス》が伝説のギタリスト《ビッグ・ボーイ》や、ゴスペルテントで黒人霊歌に触れて衝撃を受けたように、人々もまた初めてロックに触れ、ロックに目覚める瞬間に迸るダイナミズムを体感。真偽は分からないもの、ロックの原点にしてルーツ、まさに時代が変わる瞬間、時代の転換点に立ち会えたかのような充実感があった。

◉ケネディ大統領の暗殺、シャロン・テート事件、キング牧師の射殺、人種隔離法etc…エルヴィスの音楽活動は時代背景が大きく絡む。《エルヴィス》が生み出したロック音楽は、今よりもまだ戦争の名残や人種の溝が深かった激動の時代とマッチングしたんだと思う。それに、黒人移住区の貧民街で育ち、人種隔離法や人種差別を間近で見てきた影響もあるのかもしれない。












【以下ネタバレ含む】














◉時間と空間、リズムとノリ、その場を埋め尽くすエネルギーを総称して「ロック」という。天才肌のジャズやクラシックとは明確に違うのはこの点で、社会批判のパンクともまた違う。アメリカ南部における黒人発祥のブルースやR&Bに影響され、自分にとっての音楽を確立し「ロック」を創った。社会性に目覚めてからは、代弁者として、伝導者として、はたまた己から湧き上がるエネルギーを表現する為に、命を削りながらも歌い続け、世界を熱狂の渦へと巻き込んでいく。特に、地元メンフィスのライブ会場で「指一本動かすな」と指示を受けていたにもかかわらず、自分の心の声に従い「トラブル」を最高のパフォーマンスと共に熱唱する《エルヴィス》を見て、純粋にめちゃくちゃ格好良いと思った。

◉そんな彼を利用して成り上がったのが、名優《トム・ハンクス》演じる、ハーパー大佐というペテン師。こちらも、ある種の才能の持ち主。その悪どい所業に目が行きがちだけど、マネジャーとしては超一流。それでもやっぱり《エルヴィス》をお金儲けや大衆消費に利用し、本来得られたはずの未来と音楽の可能性(機会費用)を潰した罪は重い。音楽(芸術)の価値は、お金には代えられない。できることなら、自分が第2のエルヴィスとして名を馳せ、皆の心の穴を埋めてあげたい(←需要なし!! と言うか、自分が腰や脚を振って歌ってたら逮捕されそうな気がする…。)

◉とりあえず、「銃」ではなく「ギター」を買ってくれたエルヴィス母、ありがとう。







【以下、ブラックミュージックの違い】
※自分調べ







◉「ブルース」
1870年代より広がりを見せた音楽でこちらもアメリカ深南部発祥。ジャズとは兄弟のような音楽ジャンルで、黒人霊歌・労働歌などから発展したものと考えられている。ギターを用いたサウンドであることも特徴。

◉「ゴスペル」
別名・福音音楽とも呼ばれ、キリスト教プロテスタントの宗教音楽がルーツとされている。

◉「R&B」
R&Bは「リズム&ブルース」の略称で、1940年代よりアメリカの黒人コミュニティで生まれた音楽。その名の通りブルースを基調とした音楽にリズムが加わったもの。

◉「ソウル」
1950年代から1960年代初頭において、アメリカのアフリカ系アメリカ人のコミュニティで生まれた音楽。ゴスペル、R&B、ジャズなどの音楽要素も組み合わさっている。
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