CATHAT

エルヴィスのCATHATのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.7
主演男優賞等のアカデミー賞ノミネートは予想通りだったけれど、トム・ハンクスが『ピノキオ』と共にラジー賞にノミネートされてしまったと聞いて、一体どうした?!と慌てて鑑賞(と言いつつ吹き替え版で)。

劇場公開の映画としては、『華麗なるギャツビー』以来だから、ほぼ10年ぶりのラーマン監督。『ロミ+ジュリ』や『ムーラン・ルージュ』などギラギラ、ザラザラしていたバズ・ラーマン節はやや抑え気味にはなっていたものの、ベガスのような虚構の美しさを表現するようなシーンでは、独特の目まぐるしい映像美で魅せつつ、オースティン・バトラーの好演が光る、エルヴィスのアップなどの内面描写のシーンは、演出を抑えることで、両者がそれぞれ引き立て合っているように感じられたので、シーンによって「演出しない」という演出は正解だった。

ただ、肝腎要のラストシーン、最後のエルヴィスの歌唱シーンに、バトラー演じるエルヴィスの映像ではなく、エルヴィス本人の映像を持ってきてしまったのは如何なものか。どうしても比べてしまうが、『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックが、渾身のステージパフォーマンスを演じ切っていたのに対し、何だか尻すぼみに思えてしまった。

さて、低評価のトム・ハンクスはというと、こき下ろすほどではないが、確かに良くは見えないよな、という仕上がり。『ピノキオ』に関しては、作品そのものが、皆んなの期待していた恐ろしくも優しい、昔ながらの物語、という大前提を完全に無視した上での仕上がりの悪さであって、その延長線上に、主演であるハンクスがいた、というような印象だった。一方、今作『エルヴィス』では、ラーマン監督自身でさえ映像的な演出を小出しにし、主役であるバトラーを繊細に引き立たせていた中で、まるでカートゥーンの悪役のような、デフォルメされた醜悪さ(というキャラクター性)を晒していたハンクスが、悪目立ちしてしまったのだと思う。まあそれが監督からの指示だったのなら、ハンクスは見事にそれに応えていたわけだから、むしろ演技力に関しては褒め称えるべきではあるが、それが正解になり得ていなかったから、批判もやむなしというところだろう。

ハンクスの演技を観るためにと言いつつ、吹き替え版で鑑賞。江原さん自身の演技は、実写に寄せてリアルなつくりを試みようとしているのが感じられ、それがデフォルメされたハンクスの演技の厚みを時々超えてしまう瞬間があり、江原さんの引き出しはオソロシイなぁ、なんて感じながら観ていた。
CATHAT

CATHAT