とりん

エルヴィスのとりんのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.9
2022年70本目(映画館34本目)

圧倒的な知名度を誇るロックアーティストであるエルヴィス・プレスリーの半生を綴った作品。
もちろん彼の音楽はリアルタイムでは到底ないし、名前はもちろん知っているけど、彼の音楽はほぼほぼ知らない。だから楽しめないのではと最初はスルーしていた作品ではあったけど、予告を見るたびに惹きつけられて、いろんな方の感想を読んでさらに期待値が高まっていた作品。高めまくってた期待を上回るほどではなかったが見応えは十二分にあった。150分強という長さを全然感じさせないほど、エルヴィスの魅力に圧倒された。

とにかくエルヴィスの凄さとカリスマ性、華やかさを肌で体感するような作品だった。
白人カントリー音楽全盛期のあの時代に、ロックテイストの音楽をかき鳴らし、黒人のようなリズム感と踊りで、若い女性を中心に惹きつけていく様は、開拓者でもあり革命家でもあった様に思う。あまりにも仰々しいと思うほどの若い女性たちの黄色い声援だけど、あの時代にあんなド派手であまりにもストレートすぎる歌詞を歌うのって絶対目も耳も心も奪われるだろうし、映画の中でも比喩されてた"禁断の果実"をかじる様な感覚、まさにそんなものなのだろう。だからこそいろんな団体などから目をつけられ、批判も殺到するわけだが。

そんな彼の成功と苦悩を描いているが、もちろんそこで同じくらい重要な存在となるのが彼のマネジメントであるトム・パーカー大佐。
観ていると彼はいかにお金のことしか考えておらず、それだけ人を惹きつける音楽をしているエルヴィスをお金を稼ぐ道具程度にしか考えておらず、彼を心配しているように見せても、腹の中では稼ぎ頭を落としたくないという気持ちが前面に出ている。
話が進むにつれて、大佐がくそすぎてイライラしてしまうけど、エルヴィス自身も大佐に依存してしまっている。田舎者で決して裕福ではなかった彼にとっては華やかな舞台に連れ出してくれた恩人でもあるのは間違いない。しかし大佐が連れ出す以前からすでに一部では人気出てたから、大佐いなくてももしかしたら時間はかかったかもしれないがスターダムになれたかもだなぁ。そう考えると彼の末路も含めて心苦しくなるが。そしてこの大佐役をトム・ハンクスが見事に演じきっている。トム・ハンクスだと知ってたからまだしも、知らなければキャラ含め誰かわからないってくらいくらいの変貌ぷり。まさに怪演。
エルヴィス役のオースティン・バトラーは今回意識して初めて彼の演技を観たけど、ステージ上の姿の華やかさも圧倒的な魅力、色気はもう素晴らしかった。そしてステージから降りたあとの私生活の苦悩、崩れていく姿が見ていてあまりにも苦しくなるほどの演技だった。ステージ上のあの動き凄すぎる。
ちゃっかり「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のコディ=スミット・マクフィーも出てたなぁ。大佐が最初にマネジメントしていたカントリーシンガーの息子。いうて彼が大佐にエルヴィスの存在を教えた人なんだよな。彼も出鼻のエルヴィスの人を惹きつける力に魅了され、真似しようとする姿も印象的。
個人的に好きなシーンは、彼の音楽、パフォーマンスが目をつけられてる中、仕方なく大佐の言う通り新生を打ち出し一見大人しく見えるようになるのだけれど、その大佐の意見も押しのけ、自分を解放したあのライブは鳥肌ものだった。反発をものともせず、集まったファンをどんどん引き込み、昇天するが如く巻き込んでいく。
監督は「華麗なるギャッツビー」、「ムーラン・ルージュ」を手がけたバズ・ラーマン。その煌びやかで華やかな演出は見事だし、映像も良かった。
エルヴィスの華やかしい表舞台とその影にある大佐の姿と崩れていく様を見事に描ききった作品でした。ただ個人的にはもっと観ていたい、もう少し詳しく丁寧に描いて欲しかったと思ったりするところもあり、この長さでも少し駆け足だったかなぁと感じた。
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