しの

tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!のしののレビュー・感想・評価

3.0
特殊な入れ子構造のミュージカルに面食らったが、題名でも強調している「時間」を体感させる手法だと分かった瞬間に納得。ただ、逆にいえばどこに力点を置いて観ればいいのか分かりづらい時間が大半だった。あとガーフィールドの演技がやや苦手。

尺にして1時間半かけたSFミュージカルの話がマジで一旦は水泡に帰すので、「こんだけ時間を費やしたのに、またこれを繰り返すのかよ!」という主人公の叫びを追体験できる。その上で、次回作ではその体験自体を作品にするという展開。ここに接続させるために入れ子構造がある。

この1時間半、メタなレイヤーから主人公が過去の自分を眺めてミュージカル仕立てにしていくのだが、その内容があまりに卑近なのが面白い。個人的には『Sunday』の大仰さに一番笑った。このやり過ぎなくらいの正直さが彼の作品に普遍性を与えたのだということは伝わる。

ただ、内容自体はSFミュージカルの誕生譚なので、実質2つのミュージカルが混在しているのが厄介だ。言ってしまえば過去を昇華するドラマは冒頭のメタ構造から語られてしまってるわけだし、一方でSFミュージカルの話は実質サブプロットなので表層的だ。映画として、観る側の視点が定まりにくい。

入れ子構造のせいで中途半端なので、冒頭を除くクライマックスまでは敢えてSFミュージカルの話一本にして、次第に二つ目のレイヤーが浮かび上がるような構成が良かったかもしれない。それまで映した現実のシーンを、クライマックスで初めてミュージカルという非現実に跳躍させて描くとか。

あとはガーフィールドの情感こもりまくりの演技が自分は過剰に感じてしまった。通常の場面も演奏の場面も過剰なので単調に見えてしまうし切実さを感じにくい。

他にも、主人公の学びのために友人の悲劇的な運命をダシにするのが好きではないとか、言いたくなることはある。ただ、『アイの歌声を聴かせて』然り、「急に歌い出す」ミュージカルというフォーマットにメタなレイヤーから意味づけを与えるアイデアはそれなりに楽しめた。
しの

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