はる

永遠が通り過ぎていくのはるのレビュー・感想・評価

永遠が通り過ぎていく(2022年製作の映画)
3.8
とても難しい作品でした……分からん!と言って逃げ出したくなってしまうような……

「月の光」を背景に始まる冒頭の詩の朗読(と言ってしまっていいでしょうか)はまさしく詩的で美しくとても文学的でした。ただ同時に言葉が滑って行ってしまうような感覚もあり。パンフに全文が載っていていつでもあの詩に立ち返れる、というのが理想でしたが残念ながらパンフは完売していました……再上映の機会があればぜひ再版して頂きたいです。

3本の短編からなる本作。

1本目の「アリアとマリア」は、監督である戸田真琴さんの著作「あなたの孤独は美しい」を読んで感銘を受けた自分としては分かりやすくストレートにこの映画は監督の自伝的内容を扱っているのだなと感じました。それだけにこれまで語られていたメタ的な戸田真琴の話とこの短編との差異を探し出すことに腐心してしまったかなというのが反省点です。
また娘に自分の夢を託す母親と同級生に一種偏愛と呼べるものを抱いてしまう男の子(作中では女の子?)の配役を同一人物にすることには何か意味や意図がありそうですが初見では掴めませんでした。

2本目の「Blue Through」は3本の中で個人的に最も好きな話でした。マイ・ブロークン・マリコや流浪の月といった作品の風味を感じました。
ワケあり男女のロードムービー、好き!!
ストーリーや事情がはっきりしている訳ではないながら1本目と比べて自伝的なメタ的要素が薄いようにも感じ(語られてなく知らないだけかもしれませんが)、かなり取っ付きやすい作品なのかなと思いました。時系列のサンドイッチのような構成も面白く感じました。

3本目の「M」は大森靖子さんの同名楽曲のMVということもあり、戸田真琴さんの極めて個人的な事情を取り上げた曲だということもあり、映画の構成上少し浮いている作品だったのかなと思います。
MVという特性上、説明のし切れない少女たちの逃避行と「M」という曲の特性上とても具体的で生々しい歌詞とがどうしてもミスマッチなように思えてしまいました。ただ青春の甘酸っぱさが垣間見える逃避行と生々しく思わず胸がきゅっとなってしまう曲とのミスマッチ、アンバランスさが感情を揺さぶることになっていたようにも思います。

エンドロールのAMIKOさんの曲も素敵でした!!!

全編を通じて戸田真琴さんが伝えたい確固たることが「あなたの孤独は美しい」から変わらずに確かにあるんだなということを痛感していました。伝わる人には明らかな救いになるけど分からない人には分からないんだろうな、とも。
(あえて言いますが鑑賞前にレビューを見ていて女性のポエミーな作品だったらどうしようと思っていたのですが杞憂でした。me保健室で思想を開示している戸田真琴を信じろ。)

その確固たる伝えたいことの下地は今作で伝えたと思うので、次作以降でのより深まった「救済」も期待・楽しみに待ちたいと思います。舞台挨拶でも仰っていたように、人生の色々なポイントで見方や感じ方の変化する作品だと思うので、定期的に再上映をして頂きたいです。何度も見る内に咀嚼していけたらなと思います。
はる

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