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永遠が通り過ぎていくの海のレビュー・感想・評価

永遠が通り過ぎていく(2022年製作の映画)
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わたしは狂っているから、夜になったらこの肌に日焼け止めを刷き、空をあおいで狭すぎると泣き、冬がくると下着一枚になり、海まで出たのち「飛んでゆきます!」とさけぶ。何百年も読むものには困らないくらいのたくさんの言葉がインターネットを闊歩しているこの時代の中で、いきものは無駄に無意味に無価値に殺されつづけてきたから、どうかもうわたしのための言葉などひとつも残っていませんように。「おんな、若い、馬鹿で、病んでいて、つまんなくて、やがて死ぬ。」好きだった言葉も好きだった物語もたくさんの人の手で使い古されたから嘘の話ばかりを思いついて隠す。空っぽの言葉に意味を吹き込みなおし、燃やされてゆくだけの詩に水を流しなおす。「おんな(そしてそれ以外のすべて)、年老いた、あたまがよく、毎晩話をし、夜にだけ眠り、永遠に生きる。」何にもなれない時間がつづいたから、今ならそのぶん何にでもなれるに違いないから、ほしいものだけを海岸で拾った。どこにもゆけない時間がつづいたから、今ならそのぶんどこにでもゆけるに違いないから、ほしくないものを波のほうへかえした。わたしが狂っていたのは、世界がいつも正しかったからで、だから本当は世界のほうがいつも狂っていたことを知ったときに、わたしはわたしの国を統治するただひとりの正しく美しいかみさまになれた。なににも感謝しない。だれにも謝らない。かみさまはわたしの頬を叩いて言うの「どこへでもいって、なにも気にしないで、たとえ死ぬまでひとりでもいいから」。いつか皺ひとつなかったあなたの手、いつか腰まで届くほど長かったあなたの髪、いつか湿気った風の中から飛び出してきたあなたの腕、脚、かお、そのからだ、まとう空気、声、服の匂い、それを思い浮かべ、目の前に呼び出す今、このわたしこそがあなたをつくっているすべてだったんだ。
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