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ゆうなぎのtetsuのレビュー・感想・評価

ゆうなぎ(2019年製作の映画)
4.0
ムーラボで鑑賞。

東京の建設現場で働く大翔(ヒロト)。
会社勤めをしている大吾(ダイゴ)。
それぞれの環境で自立した生活を送る2人の若者。かつて、高校の同級生だった彼らの人生は再び交錯しはじめる...。

瀬戸かほさん演じるヒロインが悲しみに押しつぶされそうになったシーンで、寄り添うように流れる羊文学さんの音楽。
この使われ方だけで、MOOSICLABとしては成功しているような気がしました。

いや、しかし、本音を言うと、今年のムーラボ史上、最も過小評価されてしまった作品大賞という気もしますね、これは...。本当に悔しい...。
(ちなみに、僕は大好きでした。)

実は本作、単作として楽しめる作品でありながら、監督が撮った前作『なみぎわ』の正統な続編でもあるといった珍しい作品。(主演と友人のキャストも前作から引き続いている。)

そのため、前作を観ているのと観ていないのとでは、作品に対する印象が全く変わってしまうということが起きていました。

その中でも、とりわけ大きかった要素が2つ。
それは「1カット」と「主人公の父の存在」です。

「1カット」は前作の短編にて採用されていたもので、「重大な決断を迫られる2人の学生の数分間」を切り取るために使われていた手法。
しかし、本作で描かれるのは数日間の物語で、撮影は通常通り、カットを重ねる方法へと変化しています。
前作を観ていた僕としては、その部分に少し物足りない感覚を味わったのですが、そこで本作が用意したのがクライマックスのある展開。
人生を左右する数分間を共に過ごした2人が数年の時を経て、別々の立場になり...、 という一連のシーンからは、前作を観ていたからこその感慨深さがありました。

また、「主人公の父の存在」も本作において重要となる部分。
前作では救いようのないクズ人間として描写され、主人公の人生を苦しめていた彼。それを踏まえて、本作を観ると、前作とは違う父の姿に、何か感じるものがあるかもしれません...。

ちなみに、かつて関わっていた上映会 で、監督が伝えていた話によれば、前作製作のきっかけは「18歳での選挙年齢引き下げに合わせ、大人と子供の境界線を描きたかった」ということだそう。
そう考えれば「責任感を持ち、現実から目を背けないこと」として、大人を再定義した本作には、監督の思想の成長を感じられるような気もしました。

というわけで、21歳という同世代の監督が描くからこそ、共感する部分が多かった本作。
前作を観ていないと十分に楽しめないという点では少し惜しい作品のようにも感じましたが、羊文学さんのファンや、監督と同世代の人の中には、心に刺さる人もいるように感じる作品でした。
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