ジェイコブ

ブラックアダムのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

ブラックアダム(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

5000年も昔、人類史上最初の国民主権国家カーンダックは、独裁者の登場より自由が奪われた。人々は王の圧政から救ってくれる勇者の存在を待ち望んだ。そんな中、魔術師評議会により選出された一人の男テス・アダムは王に愛する者を殺された復讐から独裁者共々国家を破滅させ、評議会の怒りを買い、封印されてしまう。それから5000年の時が流れた現代、インターギャングによって圧政が敷かれた 。自由を求めるレジスタンスの女戦士はアドリアナは.調査に訪れた古代遺跡でインターギャング達に命を狙われ追い詰められてしまう。追い詰められたアドリアナが、墓に書かれていた呪文「シャザム」と唱えると、5000年の眠りから覚めた破壊神テス・アダムが現れる。圧倒的な力によってインターギャングの軍を壊滅させたテス・アダムを脅威とみなしたアメリカ政府の高官アマンダ・ウォラーは、テス・アダムを排除するため、ヒーロー達により結成されたチームJSA(ジャスティスソサエティオブアメリカ)を派遣する……。
DCユニバース最新作。主演は言わずとしれた漢ドウェイン・ジョンソン。この時点で観客のドーパミン大放出の脳筋ヒーローなのは確定しているが、内容もそれに負けずと劣らない大興奮のもの。ブラックアダムもまたDCならではの暗いバックボーンを抱えるヒーローだが、「ドア? 何それ文明の利器?」と言わんばかりに壁を突き破ったり、大人数の軍隊を肉弾戦(特殊能力が霞むレベル笑)で叩き潰したりと、笑えてくるシーンとのバランスが取れているので、気落ちせずに見ることができる。
本作はヒーロー映画(主にアベンジャーズ)への皮肉が全体的に込められている事を考えると、大手アメリカ映画としてはある意味挑戦的な内容だったとも取れる。アドリアナが今まで独裁国家の圧政に苦しめられている自分達を見て見ぬふりをしていたのに、超人が現れた途端にやってきては助けに来たと言うとJSAのホークマンに詰め寄っていたのはまさに象徴的なシーンだろう。JSAはあくまでアメリカ(アマンダ・ウォラー)の利益の下に動くのであり、その利益にそぐわない以上は不必要な介入はしない。ホークマンの掲げる善か悪かの絶対的な正義論や法治主義は、苦しめられている立場の人々からすれば富裕層の語る綺麗事にしか映らないのだ。そのためJSAとブラックアダムが対峙した時、ヒーローであるはずのJSAにはブーイング、ブラックアダムに黄色い声援が送られたのは至極当然なのである。
本作で最も印象的なのは、地上に現れた悪魔王サバックにより、地獄の兵士が街中に溢れ出した時、地獄の兵士と戦ったのが民衆である点だ。それはカーンダックの持つ奴隷解放の歴史にもあるように、自由や権利は突如現れたヒーローによってもたらされるのではなく、民衆が自らの手で勝ち取る。本作の真意はそこにあり、今まさに世界各地で起きている侵略や人権侵害、また権力者により都合よく変えられる法律など、あらゆる事に共通する普遍のテーマなのである。
ブラックアダムは終始、ヒーローであるという立場を否定しており、最後に自らを民衆の自由を守る守護者と言っている。本作の中にイーストウッドの西部劇へのリスペクトが込められているように、彼は用心棒に過ぎないのだ。
ヒーローは権力者や侵略者の横暴からは守るが、最後に選択するのは民衆自身でなければならない。本作はそんなヒーローのあるべき姿を説いた映画と言えるだろう。