CHICORITA主任

バビロンのCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.3
1920年代、サイレントからトーキーへの大転換期を迎えた映画の都ハリウッドを退廃の都バビロンになぞらえ、映画人たちの上昇と転落を描いた大群像劇。

1920年代、サイレントからトーキーへの転換を描いた作品といえば『雨に唄えば』が想起されますが、本作においても大々的にオマージュが捧げられており、特に後半においてはストーリーの下敷きにされるレベルでの引用がされています。なので同作はバビロンを理解するための必須級の前提になっているので、ぜひ『雨に唄えば』をご覧になってから映画館へお出かけください。

さて本作で描かれるのは、映画への愛、そして人間の営みが歴史になるというのがどういうことなのか、この二点に尽きると感じました。

上昇と転落を味わい、変化に対応しきれず消えていってしまった多くのサイレント期の映画人たち。それは彼らにとって悲劇だが、映画は彼らを「歴史」に接続し、映画史という「大きなもの」へと昇華させてくれる。
主人公のひとり、マニーの語る夢である「大いなるものの一部になりたい」という願いは、そうして悲劇の果てに達成され、それを悟った時、彼は屈辱によるものとは違う、畏怖と感動の涙を流すのです。

3時間という長尺の本作品、登場人物が多く、後半に行くにつれストーリーの抽象度が増すなど、とっ散らかった印象も正直あります。しかし冒頭30分をかけてたっぷり描かれる狂乱のパーティ、サイレント末期〜トーキー初期の映画撮影現場のコミカルな再現、そしてブラッド・ピットやマーゴット・ロビーら役者陣の重厚かつ勢いある演技など、見所たっぷりで飽きるということはありません。

チャゼル監督らしい、愛と飛躍に満ちた超大作映画。これこそ劇場でないとその価値を十分に味わい尽くせない作品です。カオスに満ちた初期ハリウッドの熱狂をぜひ映画館で体験してください。
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