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バビロンのDのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
3.0
2023年 7本目

若き名監督ディミアン・チャゼル監督が贈るクソまみれでゲロまみれでド下品な映画讃歌。サイレント映画からトーキー映画への移り変わりを描いた、これまでに数々の名作のある題材だけに、エンタメ性を抑えた真面目な作品になるのではないかと鑑賞前に少し懸念はあったが、良い意味で裏切ってくれた。

サイレント映画時代、現場には一ヶ所に多くの撮影セットが建てられて、同時進行で様々な映画が撮影されている。まだ自主規制やルールもなく、安全管理もゼロ。戦争映画では本当の戦争のような大狂乱で、大怪我どころか死人まで出す野蛮っぷり。サイレントなので録音の必要がない為、カメラが回っていても監督は大声で罵声を浴びせながら役者に演技指導を行う。設備やスタッフの統制もまったく取れておらず、当日急遽役者の変更も当たり前。そんな行き当たりばったりのハチャメチャな撮影の中でも、奇跡的な名シーンが生まれることがある。現代で言えば、予算が潤沢で緻密に作り上げられた名シーンよりも、低予算ながらも時間・アングル・演技がすべて偶然一致して奇跡的な名シーンが生まれる時の方が胸にブッ刺さる感覚と似ている。そもそも、そういうときにこそ映画の素晴らしさを強く感じるものなのだと思い出させてくれた。

対して、サイレント映画からトーキー映画に移り変わり、撮影環境は一変した。これまでは良くも悪くも自由奔放に演技ができた役者もそうはいかなくなった。まだ録音技術も生まれて間もない。立ち位置が少しでもズレればマイクの位置を配備し直さなければならないし、音量調節は役者側が声量で合わせなければいけない。今まで大騒ぎしながらの撮影が当たり前だったスタッフたちも、少しでも物音を立てれば音を拾ってしまうのでカメラが回った瞬間静かにしなければならない。サイレント映画で第一線で活躍してきたスタッフ・役者たちが、トーキー映画でにっちもさっちもいかずイライラを爆発させる姿は、こちらとしても酒池肉林ともいえる狂乱ぶりをほんの数分前まで見ていただけに、本当にしんどい気持ちになった。それでも、撮影が終わり、やり遂げた瞬間の大きな感動は、トーキー映画時代と変わらない。いつの時代だって違うしんどさがあるけれど、なにかを映像に残す尊さと喜びは変わらない。ここの一連のシーンは思わず泣いてしまった。

映画の素晴らしさを伝えてくれる最高のシーンはあとふたつほどあるが、ひとつは作中で批評家のオバハンがしっかりと言葉に起こして伝えてくれているし、もうひとつはラストのネタバレになるので割愛します。

3時間以上の長尺に足る内容量ではなかったのと、トビー・マグワイアあたりの話が明らかに不要だったのではないか(自分がよく理解できなかっただけの可能性もある)と感じたのが惜しかった。でもブラッド・ピットのクソかっこいい姿を長時間見せてくれるだけで超贅沢なのでぜんぶ許します。槍が飛んできたときのブラピの台詞は爆笑したW
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