晴海通り

バビロンの晴海通りのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.1
カオスといえばカオスだけど、はち切れんばかりの映画愛に押しつぶされそうでした。ティザーの酒池肉林のイメージだけで観に来たらあかんです(笑)。まぁでも地上波での放送は絶対ないでしょうが。

『ハリウッド・バビロン』という悪名高きハリウッドのゴシップ本がありまして。ゴシップなんて軽いもんじゃない、某映画監督はマザコンだったとか、某俳優は同性愛者だった(理解のない当時はそれをひた隠しにせねばならなかった)とか、某女優はクスリ漬けだったとか…ハリウッドという煌びやかな産業に飲み込まれていった数多のスターたちのリアルな姿が垣間見える。ほんのひとつまみのスター以外は、チラシのようにたった一瞬人目を浴びて捨てられていく。死屍累々と言ってもいい。でもその一瞬を夢見て、今日もきっと飛んで火に入る夏の虫。

ハリウッド黎明期の撮影風景はほんとに肉弾戦で笑ってしまう。それが、毎夜繰り広げられるパーティと同様にだんだん洗練されていく(その間も死屍累々)。我々はたくさんの屍の上に立っている。そしてすぐ隣で口を開けている地獄。人間がただの肉としてしか価値を与えられず、しかしそれが娯楽になっているという本当の地獄。トビー・マグワイア、流石です。なんかこういう洞穴、『アンダーザシルバーレイク』にも出てきたような。

人生は勝ち負けじゃないが、でも多分死なない方がいい。死んだら一瞬楽になるかもしれないが、でもすぐ「死ななきゃよかった」と思う気がする。生き延びた先に見えるもの、手にするものがある。それがごく当たり前のものだったとしても、スポットライトなんか浴びたことがなくても、でも生き残れ。そういう歴史の先に私たちがいるんだと思う。

これまで古い映画なんか興味なかったという人は、せめて公式サイトなどで町山さんの解説を読んでから観ましょう。あるいは『雨に唄えば』だけでも観てから劇場に足を運びましょう。ラストの面白み・重みが全然違うはずです。そしてブラピの妻役で一瞬映ったテイラー・ヒルの心洗われる美しさよ。多分ほんとにいい人なんだね。

マニーに愛を告げられた時のネリーの涙は、どうか心からのものでありますように。
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