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バビロンのシネマノのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
3.7
現代で最高峰の期待をかけられるチャゼルの暴走。新星と呼ばれる時は終わり、名匠への過渡期か。

いまだ38歳にして、もっとも期待されている監督と言っても過言ではないデイミアン・チャゼル監督の最新作。

【セッション】を初めて観た時、あのラストを目撃した衝撃は今も尚色褪せず。
【ラ・ラ・ランド】を劇場で観た時は、自分の人生の中でも数少ない燃え上がるような映画体験だった。

しかし、本作はどうだったろうか。
これだけの豪華キャスト。
これだけの長尺。
これだけの贅沢な予算使い。
確かにおもしろい、すごい、けれど心震えることはなかった。

それは、作品の好き嫌いが大きく分かれようとも、パーソナリティをフィルムに焼き付けるチャゼルこそが名作を生むのであって。
作品のための作品となると、どれも名匠たちの模倣の域を"まだ"出ていないからなのではないだろうか。

本作のカオスは確かにすごい。
チャゼルお得意のラストの演出などはよかったし、当代きっての作家であることは間違いない。
けれど、そこに垣間見えてしまうチャゼルのシネマ愛がノイズになってしまった感は否めない。

それでも決して、本作が駄作となり得なかった理由は、マーゴット・ロビーとブラッド・ピットの演技が寄与するところが大きいだろう。

特に、ブラッド・ピットの演技は素晴らしかった。
動き、声、表情、どれをとってもそこに誰もが愛さずにはいられない、ジャック・コンラッドが宿っている。
共通項が多く、こちらは傑作となった【ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド】でのディカプリオとの共演が、本作のコンラッドにも好い影響を及ぼしたのではないかと思う。

本作でジャックは言う。
「失敗した2作から俺は学んだ、俺はまだまだやれる」
そこにジャーナリストのエリノアがかける言葉は、チャゼル監督が映画に生きた人々へかける愛の言葉か。それとも。
本国での評価や興行をみても、チャゼル自身が過渡期に立っていることは確かだろう。
ただ、自分はそれが名匠へと成るための過渡期だと信じて、次回作を心から待ちたい。
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