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バビロンのumisodachiのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
3.7


デミアン・チャゼル監督最新作。1920年代の映画界を描く。

ハリウッドにやってきたメキシコからの移民のマニーと、女優を目指すネリーは映画業界人が集まるパーティで出会う。そこでネリーは映画出演のチャンスを得、マニーは大物俳優ジャックの縁を得て映画界へと羽ばたいていくことになる。しかし、時代はサイレントからトーキーへの変換期。ハリウッドの力関係もどんどん変容していき……。

象の糞から始まり、酒池肉林のとんでもない熱狂へと突き進んでいくオープニング。半裸や全裸の人間たち、酒にクスリにセックスに大音量の音楽。煌びやかな人々が繰り広げる異様な熱気がスクリーン全体を覆いつくし、輝くばかりの若さを身にまとったマーゴット・ロビーが勢いよくそのるつぼの中に飛び込んでいく……のだが、どうにも乗れなくて!全然乗れなかった!!

『エルヴィス』で主人公が音楽に魅了される子ども時代のシークエンスとか、『THE FIRST SLAM DUNK』のオープニングテーマに合わせたアニメーションとか、タランティーノ映画全般とか『フィッシャー・キング』のセントラルステーションのシーンとか、映画を観ていると無条件に滾る感覚を味わうことがある。全身が総毛立つというか、ゾクゾクするあの感じ。本作のオープニングもおそらくそういう感覚を味わう人が多いのだとは思うものの、私はまったく……何の興奮も味わうことができなかった。

なぜなのかよくわからないのだが、マーゴット・ロビーも「元気で魅力的」とは思うものの色気を感じないし、マレーネ・ディートリッヒオマージュのシーンも全然妖艶に思えなくて(リー・ジュン・リー自体は魅力的だとは思うものの)、単にうるさくて猥雑なバカ騒ぎにしか見えなった。なお、この「色気のなさ」は(私にとっては)最後まで続いた。

ブラッド・ピットの役どころも渋くて悲しくて愛せるのだが、どうにもこうにもサイレント時代の魅力的な銀幕スターには見えなくて。『ジョー・ブラックをよろしく』ではピーナツバター舐めてるだけであんなに色っぽかったのに、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でもアンテナ直してるだけであんなに痺れたのに、なんでかなあ。

ストーリーラインがゴチャゴチャしているのはむしろ好みなのでいいとして(トビー・マグワイアまわりのシーンは全カットでもいい気はしたけど)、黒人ミュージシャン・シドニーの描写以外がちょっと薄っぺらく感じてしまったのも残念だった。(シドニーが黒いドーランを塗らされるシーンはかなり良かったと思う。ギクッとして胸がくるしくなった)

あの時代の異常なエネルギーを表現するなら、あの蛇のシーンのようなわけがわからない切れ味がもっとほしかった。『雨に唄えば』や『オズの魔法使い』って何度見ても信じられないくらいのエネルギーに満ちたシーンでいっぱいなんだけど(それこそ滾るやつ)、そういう尋常じゃないクオリティの追及やエネルギーの爆発がないからどうにも消化不良で。『バビロン』がどんなに強烈だといわれても、私の目には『雨に唄えば』の方が強烈に見えるもの。表面だけ強烈風にしているものと、狂っているレベルでクオリティを追求しているものとの差を感じてしまうから。

ゴキブリの例えが出てくるセリフも上手いのかもしれないけれど、こういう作風にする割には説明しすぎな部分が多くて(ラストもしかり)、ギリアムやタランティーノのわけがわからなさを好む自分としては、物足りない。もっと!もっとできるだろう!

『ファーストマン』以外のチャゼルの映画は、どうにもピンとこない。単に私に合わないだけなのかなんなのか。映画ファンや音楽ファンが作る映画ではなくて、クリエイターが魂燃やして作る映画が観たいのに、どうにも前者な感じがしてしまうからなのかな。


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